役立たずの<役割り>とは(3)
【仕事は仕事、趣味は趣味。そう割り切って生きて行けたら、とても素晴らしいと思います。でも、ひとつだけ心残りというか、未解決の疑問が残ります。記事の表題にある<役割り>ですね。ここが、まだ論じ尽くされてないような・・・】
* 役立たずの<役割り>とは(2) の続編です
由紀夫「確かに、前回の議論 (2) では、役割という点を明らかにせず終わってしまっていますね。今回のために残しておいてくれたのかもしれません。まあ、いずれにせよ、そこを語らないことには終われませんので、この最終回では、そこを中心にお話しましょうね」
悩む人「上に書かれたような生き方っていうのは、まあ、言ってみればですね、一種の開き直りの産物でもあるのかな、と」
由紀夫「そう申せましょうね。平日働く、週末休む、このどこが悪いんだ、って感じでしょうか。全然悪くない、まったく正しい考え方なのですが、あなたのご指摘にある通り、<役割り>ですよね。仕事は社会機構に組み込まれた経済活動ですから、いちいち説明せずとも、その役割りは明らかでしょう。世界で何十億もの労働者が、そうやって働いている。それで世界が成り立っています。でも、趣味の世界はどうでしょうか。楽しいからやる、楽しくなければやめる。そこには計画性も生産性もありません。あったにしても、仕事とは比較にならないほど微弱ですね。でも、それに取り組むことで、その人は大きな力を得ますね。さあ、明日もやるぞ、という気にもなりましょう。それがひいては、経済活動を推進する原動力、牽引車となるのですね」
悩む人「そうですよね。ただ、今おっしゃった説明ですと、力関係というか、重要性の式をあらわせば、こうなるでしょう。
仕事>趣味
・・・つまり、優先順位としては、常に仕事が先、趣味は後、となりませんか」
由紀夫「それは当然でしょう。暮らしを支える活動は、常に優先されるべきですからね。休んでから働くのではなく、働いてから休む、と、先日焼失したお屋敷に住んでいた御仁も言ってましたよね」
悩む人「仏壇の火の消し忘れだそうですけど、父が立てた城を一瞬で失ったのだから、真紀子氏、あの世に行ったら角栄氏にたっぷり絞られるでしょうね」
由紀夫「天国の隅々まで、例のだみ声が響きそうな・・・いやいや、話を戻しましょう。現代というのは、実にけっこうな時代ですよ。好きな時に好きなだけ働く。そして、好きなだけ消費する、または資産を運用する。技能などを問われる古典的分野においても、昔のように長々と修行しなくていい、すぐ独立して店が持てましょう。こんな時代だからこそ、なおのこと、義務と権利の関係をはっきりさせねばなりません。まずは働いて、社会人としての義務を果たす。それから、一個人としての権利を行使する。この順序を厳守するのですよ。そうすることで、あなたのような方にも、役割りが見えてきましょうね」
悩む人「わたしのような、とは、つまり、市場主義経済に馴染めない愚か者のことですよね。愚か者の役割とは何なのでしょうね」
由紀夫「まずは、その社会の<色>を構成することです。多くの労働者が黙々と働く姿によって、社会の基調色が形成されていきます。次に、次世代への橋渡し役。少々悪い言葉をお許しいただけるならば、
しのごの言ってねえで働きゃいいんだよ、おめえら。
・・・といった意思表示を、若い世代に向けて発信するのですね。これ、とても重要。好きなことしかしたくない、辛そうな仕事なんてできない、と躊躇している彼らの背中を押す役割りとも言えましょうか。とにかく一歩すすんでみないと、世の中はわかりませんからね。最後に、世界は金だけで動いているのではない、という確固たる信念の表明役ですね。もっとも大切なのはここですよ。表と裏、という表現は、ここでは適切とは言えないのですが、まあ、便宜上そう言っておきましょう。金の力で動く世界が表、そうでない世界を裏とします。趣味が楽しくて仕方がないあなたは、表で義務を果たし、裏で人間らしく輝きます。このような人が増えれば、世界の二層構造(金で動く部分とそうでない部分で成立している)が、より鮮明に見えてくるでしょう。こうなればしめたもの、瑞典のグレタさんみたいな活動家があっちこっちで誕生しますよ。20世紀という時代は、いわば、表だけで成り立っていました。とても不均衡ですよね。だから人々の静かな不満がくすぶり続け、世界の至るところで暴発し始めているでしょう、この21世紀になってから。趣味人が義務と権利の均衡な状態で生きてゆくことが、21世紀世界の二層構造化を推進するのですよ。まあ、こんなふうに力説しても、金こそ力と信じて疑わない連中は、きっと鼻で笑うことでしょう。稼げない奴らが何を言ってるんだ、とね。これは実に近視眼的な見方に過ぎません。前回の記事の中で触れていましたが、金を追うな、あとからついてくる、というおおらかさも、二層構造化推進の過程で生まれ、定着してゆくものと言ってよいでしょう。極端な言い方になりますが、全世界70億の民すべての顔かたちが見える時代を作ってゆくことにもつながりましょうね。ここには、恒久平和実現の可能性も含まれています。夢物語だ、などと失笑せず、21世紀の理想の旗を掲げようではありませんか。理想なき現実ほど、退屈なものはないのですからね」
(了)
2199字
・・・いかがでしたか。これで今回の主題は終了です。
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