便秘歴30年の私

【基本命題】

あらゆる便秘は悪である。

 

 

所長 「ずいぶん長かったな。もう会議終わってしまったぞ」

部下 「すいません。がんばってたものですから」

所長 「便通が良くないのは知っていたが、今日は最長記録じゃないか。およそ50分だ。そんなに力み続けてたら、今に脳の血管が切れるぞ。今年で40歳。君ももう若くないんだからね」

部下 「50分の戦いは、むなしい結果に終わりました」

所長 「何だ、出なかったのか」

部下 「はあ。ウンコの代わりに鼻血が出ました。止血したりしてたので、その分よけいに時間が」

所長 「力むといつもそうなるのか」

部下 「30分以上やると、だいたいこうですね。理由はわからないですけど」

所長 「いつ頃から便秘なんだ」

部下 「よく覚えてないんですけど、小学校4年の遠足の時、便所が長くて帰りのバスに乗り遅れそうになったことがありましたから、あそこから勘定すればちょうど30年ですね。記念すべき30周年」

所長 「そんな記念は胸の内にしまっておくんだな。ウチは小さな事業所だからね、便所は男女各ひとつずつしかない。それを1時間近く占拠されたのでは、他の皆が困るんだよ。それに、8時間労働のうちの1時間も閉じこもられたのでは、効率が悪すぎる。立場上、見逃してやるわけにはいかんね」

部下 「はあ、15分を目標にします」

所長 「10分にしろ。いいね」

 

 

部下 「すいません、5分オーバーしてしまいまして。以後気を付けます」

所長 「汗だくじゃないか。出たのか」

部下 「ダメでした」

所長 「出なくなって、今日で何日目なんだ」

部下 「1週間になります」

所長 「ううん、排便は自然な作用だと思っていたのだが。食べカスを1週間分も腸にため込むだなんて、そんな器用なことはできんねえ。薬は飲んでるのか」

部下 「医師・薬剤師の世話にはなりたくないので」

所長 「そうは言ってもねえ。今までの最長は何日だ」

部下 「10日です。1週間なら慣れてますので」

所長 「冷え性とかドライアイとか、君は女に多い症状をいくつも持っているねえ。奥さんは知ってるのか、ダンナがそうやって苦しんでいるのを」

部下 「はあ、朝晩必ず野菜を食べさせてくれるんですけど」

所長 「食物繊維ってやつか。しかしなあ、塞がっている状態にいくらぶち込んでも、効果ないんじゃないのかねえ。奥さんの努力に水を差すようで悪いが」

部下 「はあ、いちおう、薬は家にあるんです。でも、非常の際に限るということにしてますので」

所長 「1週間も出ないのが非常事態でなくて何なのだ。健康管理は自己責任とは言え、知ったからには俺も無視できん。今夜、必ず薬を飲め。いいね」

部下 「女房に伝えます、所長命令だと」

所長 「こんなつまらん命令出してるほど暇じゃないんだがねえ」

 

 

所長 「君の顔を見るとつい聞きたくなるんだが。どうだ、出たか」

部下 「大腸が全く反応しないんです。1回2錠で出るはずなんですよ。たまに飲んでますから」

所長 「効かないんなら薬を増やせばいいだろう。ううん、営業所の所長と営業マンの会話じゃないねえ、これは」

部下 「便秘薬って、体が慣れていくんです。1錠→2錠→3錠、ってだんだん増えていって・・・ああ、そう考えるとイヤだなあ」

所長 「四の五の言ってないで、とにかく全部出してしまえ。これ以上溜めると口から臭ってきそうで、俺もそばにいるのがイヤだよ」

部下 「はあ、今夜は3錠にしてみます」

 

 

所長 「何だ、またトイレ行ってたのか。1回分は短いが、全部合わせりゃ1時間ぐらいありそうだねえ」

部下 「薬が効き過ぎまして、止まらないんです。便意が断続的に襲ってきて」

所長 「それじゃ仕事にならんねえ。2錠は効果なし、3錠は効きすぎる、か。間をとって2・5錠にしてみたらどうだ」

部下 「はあ、それ、いい考えですね。やってみます」

 

 

所長 「また効き過ぎか。2・5錠はダメか」

部下 「女房にそう言ったら、成分を包んでいるコーティングが腸で溶けて効力を発揮するんだから、半分に割れば最初からコーティングの剥げ落ちた状態で飲むってことで、全然意味ないそうです」

所長 「で、また3錠飲んだってわけだ」

部下 「はあ、でも、前回ほど効かないです。出方が鈍いんです、明らかに」

所長 「君の恐れた通りになっていくようだねえ。気の毒だが、俺には何もできん」

部下 「3日前に飲んだからだと思うんです。日にちを空ければ効くかもしれません。今度は1週間後にします」

所長 「排便回数週1回か。メシは3度食ってるんだろう」

部下 「・・・そう考えると、自分でもおかしいなあって思うんです。体質ですよね、これ」

所長 「わからんねえ。ま、とにかく、口から逆流する前になんとかしてくれよ」

 

 

所長 「ようやく便所から出てきたと思ったら、何だ、妙な歩き方して」

部下 「尻を拭き過ぎて痛いんです」

所長 「困った男だねえ。そうだ、確か女性用はウォッシュレットのはずだ。夕方5時過ぎれば女性陣みんな帰るから、それから女便所を使いなさい。俺が許可してやるよ」

部下 「ありがとうございます。あと1時間待って、さっそく使わせていただきます。拭き残してるみたいで気持ち悪くて」

 

所長 「何だ渋い顔して。ウォッシュレットは良かっただろう」

部下 「痔が悪化してます。週1回の排便ですから、最初のウンコは固いんです。何日も経って水分が抜けてるので。肛門を無理やり広げてるってことでして。切れてるところを水が直撃して、それはもう痛いの何の」

所長 「いいよ、そんな生々しい話はしなくても。慢性便秘のせいで切れ痔か。痔が持病、ではシャレにもならん。排便の度に出血してたら、痔は悪化する一方じゃないか。ええい、もうダメだ、相手してられん。医者に行け。便秘と痔と両方診てくれる医者がいるのかどうか知らんが、そんな状態ではいい仕事ができん。明日にでも医者行ってこい。わかったね」

部下 「はあ、女房に相談してみます」

(了)

 

本記事により、ひとつの疑問が抽出されます。題して、

慢性便秘は治せるのか

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