市販の離乳食をおススメしない理由
最大の理由:味覚が育たない。
妻 「ずいぶん大きな袋下げて。会社の帰りにスーパー寄ってきたの」
夫 「アーちゃん、そろそろ離乳食だろ。いろいろ買ってきたんだ」
妻 「歯がどうとか噛む力がどうとか昨夜言ってたけど、そう、そういうこと。先に教えて欲しかったな」
夫 「ごめん。勝手に判断してしまって」
妻 「まあいいよ、今度から相談して。アタシたちふたりしかいないんだから。で、何買ってきたんだろ。中身見せて」
夫 「これはおいしいんじゃないかと思ってね、有名メーカーのものだし。・・・よいしょっと」
妻 「ふうん、これかあ。スーパーの棚に、どどーん、と並んでるよね。ねえ、これ開けて、食べてみて」
夫 「<チキンのかぼちゃシチュー>か。僕、これがいちばんおいしそうだと思ってさ、食べてみたかったんだ。離乳食は試食品置いてないからね、普通。どれ、ひとくちいただくとするか」
妻 「正直な感想をどうぞ」
夫 「なんか違う。うまく言えないんだけど、違う」
妻 「自分がアーちゃんになったつもりで」
夫 「それは難易度高い注文だね。でも、そうだなあ、いかにも工業製品を食べさせられたって印象だなあ」
妻 「でしょ。味付けもそうだけど、何だか怪しげな添加物のカタマリって感じなんだよね、市販の商品って。うららちゃんちのママがさ、忙しくて作ってらんないから市販品買ってさ、我が子に与える前に試食して腰抜かしそうになったんだって言うから、アタシ、まだアーちゃんの気配もなかった頃、自分で買って食べてみたの。大手3社の売れ筋とか謳ってるのを選んだんだけど、モー最悪」
夫 「離乳食ってさ、ママのおっぱいの次に口にするものだろ。こと始めがこれじゃなあ。でも、君も在宅ワークで忙しい人だから、少しでも負担を減らした方がいいとも思ったんだ」
妻 「ありがとう、気持ちはいただくね。いくら忙しくても、アーちゃんの『食との遭遇 導入編』で手を抜くわけにはいかないもの」
夫 「そうだそうだ。僕もできるだけのことはやるからね」
妻 「アタシたちの子だもの、アーちゃんは」
夫 「アーちゃんって、けっこう聞かない子だよねえ。かぼちゃはテーブルの脚に塗りたくるし、サツマイモは投げ飛ばすし。先行きちょっと不安」
妻 「しっかり食べるときもあるから、心配いらないって。春雨なんか大好きだよ」
夫 「そう、知らなかったな。でもさ、味付けが薄過ぎやしないか気になったんだ、実は」
妻 「同じメニューでも、味付けは微妙に変えてるの。ダシを使うときも、昆布・鰹節・煮干しと、それに化学調味料といろいろ試してるんだけど、今のところ、昆布ダシで煮たジャガイモをすりつぶしたソースのかかった春雨がお気に入りみたい」
夫 「高糖質だね」
妻 「炭水化物を悪者扱いする医者なんかもいるけど、糖分は基本だもの。穀物が人類をダメにするとか、白砂糖は一切口にするなとか、いろんな医学知識をタテにとって言われてもねえ。それは食べ過ぎの場合でしょ、って言いたくなるのよね」
夫 「朝ご飯で白米いっぱい食べて、砂糖たっぷりの紅茶飲むと、その日ずっと体調いいんだ」
妻 「アタシもそう。特に朝は白いご飯でないとダメ。アーちゃんのエネルギー源は、糖質6:その他4の比率でいこうと思って」
夫 「うんうん。そうだ、まずは元気な女の子に育ってもらわないと」
妻 「食べない子って活力がないの。そういう子見てると、だいたいさ、親がお菓子ばっか与えてる。歯の発育にも良くないし、だいいち、味覚が育たないんだよね。味のわかんない子はどうなると思う」
夫 「既製品ばかり食べる人になるだろうね。食品産業にとっては上得意かもしれないけど」
妻 「それもあるけど、もっと深いところで言うとさ、味覚オンチの子って、食べるということと、食べ物に対して、あまり関心もたなくなると思うの。人間だけじゃなくて、生き物はみんな、何か食べて生きてるじゃない。食に無関心➡生きることに消極的➡生存競争に負ける ってことになっていくんじゃないかなって」
夫 「ううん、いちいちごもっともだ。科学的には論証できないけど、僕もそんな気がするよ。アーちゃんはさ、食べ始めたばかりだろ。てことは、胃とか腸とか、消化器官の活躍はこれからだよね。食べることに無関心な子は、消化力、って言葉があるのかどうかわからないけど、咀嚼して飲み込んで、体の中で消化吸収するっていう一連の能力が正しく育たない気がするね」
妻 「そうなの。ホラ、昔の子供の方が顎が強かったとか言われるじゃない。科学的には知らないけどさ、他の兄弟姉妹をおしのけて競うようにして食べた世代の人たちって、今、丈夫なおじいちゃんおばあちゃんになってるでしょ。アーちゃんが年を取った日まで先回りして考えるのもどうかと思うけど、ガツガツ食べるのは、それだけ生きる力が強いってことにつながる気がするの」
夫 「そうだね、お行儀を躾けるのはその後でいいよね」
妻 「そばにいるだけで元気もらえそうなタイプっているじゃない。こういう人はだいたい食べっぷりがいいし、食べることに何らかの信念みたいなものを持ってるのよ」
夫 「職場の部長はまさにそれだ。魚はよく煮て背骨まで食えって、飲み会で魚料理がでると必ずそういう話になるよ」
妻 「あまり持論を押し付けられるのもイヤだけどさ、確固たる信念って、聞いてると楽しいよね」
夫 「うん、見当違いだとしても面白いよね。何かを信じるって大切だよ」
妻 「さっきアタシが言ったのと逆だと、食に関心を持つ➡生きることに積極的➡生存競争に勝つ ってことになるけど、正直、そこまで考えて言ったわけじゃないの。いつも競争してなきゃ落ち着かないような人にもなってほしくないし。ただ、活力の無い、そばにいたらネガティブ菌に感染してしまいそうな後ろ向きの女にはなってほしくないよね」
夫 「確かに。貧乏神に取り付かれたみたいな人間にしないためにも、まずは食べさせよう」
妻 「今度はアナタが作ってみて。何でもいいから」
夫 「よし、この週末は厨房に入り浸るとするか。・・・あれ、アーちゃんの声かな」
妻 「力説したのが聞こえたかも。寝かせてくるね」
(了)
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