プレミアム・フライデーを廃止せよ
プレミアム・フライデーに反対する家庭人の事情
夫 「ただいまあ。今月は3時にあがれたよ。プレミアム・フライデー導入1周年にして初体験だ」
妻 「きょうも無理だろうなって言ってたものね。どこか寄ってくればよかったのに」
夫 「我が子のことを思うと、そうもいかないさ。アーちゃんが僕を待ってるんだから。・・・待ってないな」
妻 「寝るのがアーちゃんの仕事みたいなものだから。てことは、何、家事手伝いの為に早く帰って来てくれたの」
夫 「そう。いつも土日しか手伝えないからね。きょうはガンガン働きたいんだ。何でもやるよ」
妻 「買い物、掃除、洗濯、晩ご飯の下ごしらえ。みーんな終わっちゃったんだよね」
夫 「ベッドの脇で、子守歌でも歌っていようか」
妻 「さっき寝たばっかりだからさ。起きちゃったらヤダからやめて」
夫 「・・・どこか寄ってきた方がよかったかな」
妻 「晩ご飯までだいぶ時間あるし、アーちゃんも当分起きないだろうし。健康の為に、ウォーキングでもしてきたら」
夫 「そうだな。ううん、そうか、突然早帰りされても、家を預かる立場としては困ってしまうんだね」
妻 「確実に帰ってくるってわかってれば、まだ何とかできるんだけどさ。主婦業も何だかんだ忙しいから、やれることはどんどん前倒しでやっていくの。アーちゃんが急に体調崩すかもしれないし、先週みたいに、給湯器が故障してお湯が使えなくなったり、とにかくイレギュラーなことがルーティンに割り込んでくるかもしれないじゃない。だから、アテにできない人を待ってるわけにもいかないの。あ、キツイ言い方でゴメンね」
夫 「ううん、よくわかるよ。計画をたてにくい立場だからこそ、なおのこと、計画的に行動したいんだよね」
妻 「そうなの。主婦として言わせてもらうとさ、家事手伝いの為に早帰りしてくれるんなら、月1回じゃ少な過ぎだね。しかも確実じゃないし。アナタに役割を用意しておきたくても、これじゃあね。毎週金曜ってわかればさ、その日はアーちゃんを公園に連れて行く日にするとか、いろいろ考えられるんだけど」
夫 「毎週は無理だなあ」
プレミアム・フライデーに反対する企業側の事情
妻 「お帰り。またいつもの金曜に戻っちゃったね」
夫 「残業っていう言葉自体が、ほとんどないようなものだからね。仕事に区切りがつくまで働く。営業マンの基本姿勢は、どこの会社も同じじゃないのかなあ」
妻 「業界によっても違うんだろうね」
夫 「そうだね。僕は食品卸に勤めてるけど、同じ食品でも、メーカーと卸じゃ違うんだよね。卸は中間流通だから、利幅が薄くて忙しい。顧客が百貨店やスーパー等の小売業だから、受注や出荷に求められる刻限は遅くなる。相手は夜遅くまで営業しているからね。当然の如く、お店を担当する営業マンの労働時間も長くなるってわけだ」
妻 「小売業って、プレミアム・フライデーで早く帰る人たちを受け入れる、というか、待ち構えてる立場だよね。世間様の早帰りの日はむしろ忙しいんだね」
夫 「その通り。人が休んでる時に働くのが、小売りや外食など接客業の基本だからね。そこに商品を納入している僕たち卸も、小売りとほぼ同じ繁閑のリズムに従って動いている。だから、先週の金曜に早帰りできたのは奇跡的なんだ。小売店さんが知ったらたぶん、いい気はしないだろうからね、けっこう神経使うよ」
妻 「今はいろんな働き方が広がってきてるから、定時 っていう考え方も変わっていくんじゃないのかしら」
夫 「問題視されてる物流業者なんかまさにそうだけど、自分の所属する業界の流儀に従って働くしかないと思うんだ。朝早いけど夕方も早くあがれるとか、遅出だから帰宅も遅いとか、夜勤があるとかさ。金曜の午後は早く帰りましょうなんてのは、昔ながらの定時出勤・定時退社できる職場に限られるんじゃないかなあ」
妻 「アナタはどう、そういう定時退社組に加わりたいと思う」
夫 「全然。むしろ逆だね。僕は中間流通っていう立場に誇りを持っている。卸は消えてなくなるなんて近視眼的な見方しかできないエセ知識人もいるけど、メーカー直送では商品供給が成り立たないことは、amazonや楽天を例に挙げるだけでじゅうぶんわかりそうなものだ。製品に付加価値を足して社会の活性化を図るのが僕ら卸の役割だからね。卸のプラットフォームとしての機能は、ますます強化されていくはずだよ」
とっても胡散臭いプレミアム・フライデー
妻 「プレミアム・フライデーって、政府と経団連が考えたらしいけど、熟慮の末に決めたって感じじゃないよね」
夫 「働き方改革にもつなげたいようなこと言ってるけど、結局は消費喚起策でしかないんだよなあ」
妻 「安易だよ、すごく。お金を使わせることしか考えてないもの。金は天下の回り物って言うけどさ、目先しか見てない政策って、お金を回そうとしてないと思うの。坂を転げ落ちるみたいに、一方的にダダーッと流れておしまいなんだよね」
夫 「同感だね。奨励されるべき消費というのは、何らかの投資につながるものだと思うんだ。ただ金をじゃぶじゃぶ垂れ流しておしまいじゃなくてさ、心身の鍛錬であったり、自己啓発や能力開発であったり、明日の社会を建設する原動力として機能する部分を育てていかなきゃ、刹那的浪費で終わってしまうよね」
妻 「英会話学校なんかさ、盛んに宣伝してるくせに、金曜限定コースを提案したりとか、具体的なこと何もやんないんだもの。早く帰る人なんて、スクール・ビジネスにはもってこいの上客候補だよ。知識との遭遇体験が、体系的に学ぶきっかけになる場合って、少なくないと思うんだけどなあ」
夫 「何にしてもさ、権力者主導の政策は工夫が足りないよ。100年の計、とまでは言わないけど、せめて10年後にも残るぐらいの中期的な視点で取り組んでほしいものだね」
妻 「結局さ、政治家も経営者も、悪い意味でサラリーマン化しちゃったんじゃないかしら。自分の任期中にそこそこ成果が出ればあとは知らない、っていうのが多過ぎるのよ」
夫 「あの程度なら、僕でもできそうな気がするよ。まあ、当面はアーちゃんを育てるのに精一杯だけど」
妻 「でもさ、思い立ったが吉日なんて言うじゃない。今すぐできること何かないかしらね」
夫 「まずは納税額を増やすことだろうね。稼ぎが少ないのでは、国に文句も言えない。義務を果たせていないくせに権利ばかり主張する愚か者が多いからね。これも困ったことだ」
妻 「アーちゃんがもう少し大きくなったら、アタシも働くからね」
夫 「ふたりで税金いっぱい納めようよ。文句言うのはそれからだね」
(了)
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