五十肩すら治せないヤブ医者たちへ
五十肩を治せなければヤブ医者なのか
由紀夫 「五十肩すら治せないなんてヤブ医者だ、と、ずいぶんお怒りのご様子ですね」
悩む人 「治せないと申しますか、より正確に言えば、治す気がない、となりましょうか。こっちは痛みで苦しんでいるというのに、軽症扱いされて、親身になって話を聞こうとしないのです。あのような態度には納得できません」
由紀夫 「整形外科の領域で考えれば、五十肩は軽症でしょうね。骨や筋肉の異常・不具合で苦しんでいる方々と比較すると、医者としても、ホッとひと息つきたくなるような患者なのかもしれないですよ」
悩む人 「すべての患者に全力で取り組むのが、医者の正しい姿ではないのでしょうか」
由紀夫 「それが正論です。あなたのおっしゃることに異論を差し挟む余地はありますまい。しかし、実際にはどうでしょう。医者だけではない。商店でもそうでしょう。三百円の商品を買う客と、三百万円の商品を買う客とでは、扱いが違うはずです。医療は有償行為ですからね。難易度が高い=医療費も高い、というわけで、医者の力の入り具合に差がでるのでしょうね」
悩む人 「しかしですね、私は感じたのですが、ただ力が入らないだけではなく、実際、不得意な症状なのではないか、或いは興味のない症状なのではないか、という気がしたのです」
由紀夫 「それはあるでしょうね。医者にも得手不得手があって不思議はないですから。五十肩を治せなかったからと言って、その医者をヤブと決めつけるのはいかがなものでしょう。また商店の例で申しますが、いくら豊富な品揃えの店でも、自分の欲しいものを置いてなければどうですか、おそらくその人は、家族や友人知人に向かってこんな言い方をするでしょう。
あの店、何も置いてないよ。
・・・ある患者にとっては名医であっても、あなたにはヤブ医者。じゅうぶんに考えられることですよ」
悩む人 「つまり、五十肩ぐらいで決めつけるなと」
由紀夫 「ヤブ医者とバッサリ切り捨てるのは良くないということです。しかし、医者と患者の関係はですね、相性がとても大切です。その整形外科医とは相性が悪いようですから、今後、肩以外の症状であっても、別の医者に診てもらう方がいいですね。探せば必ずいますよ、あなたとパートナーシップを築ける医者が。薬を飲むときを思い出してごらんなさいな。こんな薬効くものか、と思いながら飲んでも効きません。信じられる相手を探すのですね」
「お医者様」と盲目的に信頼する時代は終わった
由紀夫 「医者を信頼するにあたって、何が必要かわかりますか」
悩む人 「いい医者を根気よく探せ、ですか」
由紀夫 「違います。医療の助けを借りる以前にですね、どこまで自助努力したかという点が大切なのです。肩が痛い、どうしましょう、ではなく、なぜそうなったのか考えるべきでしょう。体が硬いからではないか、運動不足ではないか、等々、この際ですから自己分析をしっかりやって、自分なりの対処法を考えてから医者にかかってみてはどうですか。専門家と自分と、考え方がどう違うかわかるでしょう。患者は弱者であってはなりません。医者と対等と言えるぐらい自分のレベルを引き上げる努力が、あなたには欠けていたと言わざるを得ませんね」
悩む人 「素人が中途半端に専門知識を身につけても、役に立たないのではありませんか」
由紀夫 「専門的な知識など不要です。ただ、あなたがお考えの専門知識と言うのは、おそらく、今の時代では常識の範囲内にあるものでしょうね。かつては専門家に金を払って教わったことでも、今は親指一本で検索できてしまう時代ですよ。病院を探すにしても、口コミサイトなどに目を通せば、さまざまな情報がタダで入手できますね。例えば内科医であっても、専門分野はさまざまです。その医者が何を学び、どんな経験を積んできたかも、web上に公開されている場合も珍しくありません。徹底的に調べ上げて、この医者に診てもらおうと決めれば、あとは信じて指示通りにするべきでしょうね。その際気を付けた方がいいのは、自分の症状に対する認識です。頭が痛い、腹が痛い、だけでは、三歳の幼児でも言えますからね。自分の体質の特徴から過去の病歴、薬との相性等々、初診時に伝えておくべき情報がいろいろありましょう。私の言う知識とは、そういった自分のことを説明するのに必要なレベルの知識のことです。どうです、自分のことを医者に正確に伝えられますかな」
悩む人 「そう言われてみると・・・少々不安、と申しますか、自信ないです」
由紀夫 「偉い先生にお任せ、という時代は終わったのです。よく考えてご覧なさいな、あなたのことは、あなた自身以上に知る人がいますか。あなたはあなたの専門家なのです。自分のことを正確に伝えられるようになれば、医者の指示が間違っていてもどこかで気付きますよ。盲目的に相手を信頼しきってしまえば、誤診であっても気付きません。医者からすれば、ずいぶん扱いやすい楽な患者、悪い言い方をすれば、安全パイみたいなものでしょう。いいカモにされないためにも、しっかり勉強して、自己防衛してください。私の言うこと、御理解いただけましたかな」
良い医者と悪い医者を、どうやって見分けるのか
悩む人 「しかしですね、おっしゃるように知識を身に付けたとしても、やはりヤブ医者に当たることはあると思うのです。医者の見分け方があれば、お教えくださいませんか」
由紀夫 「最初に話したように、相性の悪い医者はやめましょう。どうも信用できん、とか、こういうタイプは嫌いだ、などと当初から感じたのなら、これはもう理屈ではありませんから、別の医者を探した方がいいのです。しかしそうではなく、何度か通ううちに相手を見抜くとなりますと、いくつか要点がありますね。
~医者の良し悪しの見分け方~
1)質問されると怒る。または露骨に不機嫌になる。
2)やたらと難解な専門用語を使う。
3)明らかに勉強不足(新しい知識を持っていない)
4)常に自分が正しいという姿勢が見え隠れする(患者から学ぼうという姿勢が見られない)
5)臨床現場より、学会など院外活動偏重傾向がみられる。
・・・○○病自己診断シート、等ではありませんから、以上のうちいくつあてはまったら云々などとは申しませんが、まあ、ひとつでもあれば避けた方がいいでしょうね。最も要注意なのが3)です。これを見破るには、患者側もある程度勉強していなければなりませんがね。医学生時代に習った古臭い知識に固執しているようなトンデモ医に当たってしまったら大変ですよ。症状にもよりますが、例えば生活習慣病のような、世界中で研究されている疾患であれば、最新の知識を持っているかそうでないかで診療のレベルに大きな差がでる場合があります。おおざっぱな見方をすれば、まあ、閑古鳥が鳴いてる医療機関には近寄らない方が無難でしょうな」
(了)