プロ野球優勝セールの顛末

かつての盛り上がりが見られない、プロ野球優勝セール

妻 「残業少なくなったよね。休日出勤も減ったし。まあ、手当も何も出ないんだから、働かない方がいいんだろうけど」

夫 「もう五十歳過ぎたからなあ、あんまり長く働くのはキツイよ。以前はウチの会社もさ、読売ジャイアンツ優勝セールだの応援ありがとうセールだのと、野球に便乗して荒稼ぎしようとしてたものだが、球団との契約を更新しなかったみたいでね。あの狂乱バーゲンセールがなくなっただけでも楽になったよ」

妻 「シーズンが終わりに近づくと、いつも巨人の順位気にしてたものね」

夫 「派手なバーゲンをやるとさ、その時はいいんだが、後で反動が来る。定価でモノが売れなきゃいけない時期に、安物しか売れないんだからな」

妻 「でもさ、お祭りがなくなってちょっと寂しいんじゃないの」

夫 「そういう気持ちもあるなあ。百貨店のそごうは、経営破綻するまでずっと巨人軍に肩入れしていた。そごう東京店、今はビックカメラ有楽町店になってるが、ここが読売グループのビルだということから野球の応援が始まったんだがね。思い出すのは1989年の日本シリーズだ。近鉄が三連勝して、近鉄側はおおいに盛り上がっていた。ところがそのあと巨人が四連勝して逆転日本一。当時そごう担当だった俺は急に忙しくなったもんだ。懐かしい思い出だなあ」

妻 「なんでイマイチ盛り上がらなくなったんだろうね」

夫 「プロ野球人気の翳りと、巨人の弱体化だろうな。とりわけ、優秀な選手が続々とアメリカに渡っていくことが大きいんじゃないかねえ。日本でどこが優勝するかってことより、大谷がどれだけ活躍するか、イチローが現役引退後どうするかといったことに人々の関心が向いてるだろう。松坂がルーキーだった頃ぐらいまでだな。バーゲンに勢いがあったのは」

 

 

プロ野球の優勝と、お店の売り上げとの関係

妻 「優勝セールって、どこが始めたんだろうね」

夫 「どこだろうなあ。ちょっとした応援セールぐらいなら昔からあったと思うが、企業の取り組みとして目立つようになったのは比較的最近だろうな。さっき話したように、そごうは巨人びいきだったが、イトーヨーカドーもそうだった。そごうは今、そのイトーヨーカドーのいるセブン&アイホールディングス傘下に入っているね。その前は西武百貨店の尻に敷かれていて、その時期だけは西武ライオンズ優勝セールをやっていた。横浜そごうで優勝セールの手伝いをしていた時、お客さんに言われたよ、 巨人が勝ってもバーゲンやるんでしょ ってね。まあ、客の立場からすれば、安けりゃ何でもいいんだろうな。名古屋の店や企業は、当然だが中日ドラゴンズを応援している。福岡はホークス、仙台は楽天、北海道は日本ハムだ。横浜ベイスターズの場合はちょっと違っていて、横浜の企業や商店であれば、申請すれば応援セールを実施できる。強い年は応援して、弱い年は知らん顔している会社なんかもあるね」

妻 「野球のセールをやるのとやらないのとでは、業績に差が出るのかしら」

夫 「楽天の時みたいな、めったにない珍しい出来事の場合はかなりの集客が見込めるからね、売り上げもデカイだろうな。ただ、勝たなければダメだね。リーグ優勝で一回バーゲンやるだろ、その後日本シリーズで負けて、応援ありがとうセールなどと銘打ってバーゲンを実施しても、優勝した時とは比較にならんほど売り上げは悪い。店は優勝を見込んで仕入れてるから、在庫が余っている。何らかの手段で商品をさばかなきゃならんから、こじつけでも何でもいいので、在庫減らしするしかないわけだな」

妻 「毎年勝つチームってあんまりないじゃない。次の年のバーゲンはどうするんだろうね」

夫 「前の年にデカイ売り上げを作ってるからね、何もしないわけにはいかん。かといって、最下位のチームを応援しても集客など知れている。販促企画担当者としては、頭の痛いところだろうなあ」

 

 

 

優勝セールを球団側から見れば

妻 「お店はいいけどさ、野球チームからすれば、バーゲンセールのメリットなんてあるのかしらね」

夫 「ないだろうな。野球が盛り上がって店が売れることはあっても、その逆はないからね。バーゲンをきっかけに野球を見るようになったなんて話は聞いたことがない。せいぜい、選手のグッズの売り上げが少し伸びる程度だろう」

妻 「バーゲンに野球選手も参加したらどうなのかしら。お店で売り子さんに混じって販売を手伝うとか」

夫 「よほど創設まもない球団で、なおかつ地域密着度の極めて強いチームであれば、そういうのはいいかもしれん。が、それにしても、トップクラスの人気スターは参加しないだろうね。居るだけで客が大挙押し寄せて来て、売り場が大混乱になるに決まってるからね」

妻 「マスコミの取材攻勢も凄いだろうしね。結局、地道にコツコツ商いに精を出すのが繁盛への近道なのかしら」

夫 「正論過ぎて少々面白みに欠けるが、まあ、そういうことだな」

(了)

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