プロ野球優勝セールって、必要なのか

 結論から問う。プロ野球優勝セールは必要なのか

問う人 「秋になると、必ずプロ野球チームの応援セールだの優勝セールだのといった安売りがありますね。あんなものが世の中に必要なのでしょうか」

知る人 「世の中ときたか。社会的意義という、極めて生真面目な視点で捉えて答えればだな、まあ、いらないんじゃないの、とでも答えるしかなかろうね」

問う人 「ただのこじつけにしか見えないのですが」

知る人 「ただのこじつけであり、便乗であり、状況によっては悪乗りともなるだろうね。安売りをやる最大の理由は、言うまでもなく消費喚起だ。ひらたく言えば、消費者に金を使わせる作戦のひとつということだな。阪神や楽天のような、めったに勝たないチームが優勝したりすれば、かなりの集客が見込める。1985年の阪神の優勝の時は、関西を中心に異常なほどの騒ぎだったな。掛布・バース・真弓の頃だよ。だが、巨人みたいな金満球団でさえ、何年も勝ち続けるのは難しい。商売の場合、必ず前年実績というものが残るからね。前の年に優勝セールで大きく稼いでいたら、今年も何かやらねばならん。いちばん手っ取り早いのが、前年と同じ優勝セールだ。勝つかどうかわからんよね、つまり、前年ほどの売り上げは期待できない場合が多い。だから、シーズン中から応援セールなどと銘打って、優勝への気運を盛り上げてゆく。いちどに金を使わせるのが難しければ、少しずつ小出しにさせようとでも考えているのかもしれん。とにかく、何とかして売り上げを伸ばさなきゃならんということだよ」

問う人 「ということはですね、商売人さんには申し訳ない言い方になりますが、売れれば何でもいいんですよね。何もプロ野球でなくても」

知る人 「そうだね。プロスポーツだけでも、他にいくつもある。大相撲優勝セールでもいいのかもしれんが、そういうのは聞いたことがないね。優勝パレードならあるが、バーゲンセールにまで結びつけた例は珍しかろうね。君、なぜだと思うね」

問う人 「野球の方が人気の点で上回っているとか」

知る人 「どうかねえ。どっちも、かつての輝きはないだろう。野球はスターがアメリカへ流出し続けてるし、大相撲は不祥事続きだ。外人力士全盛の現状も、古いファンにとっては不満のタネだろうしね。バーゲンセールとの関連に絞って言えばだな、相撲は年六場所だろう。そんなにひんぱんに安売りをやっていては、忙しいだけでいっこうに儲からん。あくまで消費喚起策に過ぎんのだからな。その点、野球の優勝は秋一回だけと決まっている。冬の歳暮・クリスマス前の起爆剤としては都合がいいのだろうな。暮れ近くなれば、多くの職場では賞与が支給されるね。これへの繋ぎ役としても、秋の大型バーゲンには期待が集まるのだね」

問う人 「なるほど。秋のバーゲン➡ボーナス➡お歳暮➡クリスマス➡歳末大売出し 、ってことですね」

知る人 「その通り」

 

優勝セールしかネタが無いのか=販促企画力の貧困を問う

問う人 「秋のバーゲンのひとつとして実施するとのことですが、私、デパートなどに行くとよく感じるのですけど、バーゲンといえばワコールみたいな有名企業の商品か、感謝祭だの創業祭だの、あとはクリスマスセール、歳末大売出しと、いつも型が決まっていますね。野球の便乗商法もそうです。日本には豊かな四季がありますでしょう。田植えに因んだり、収穫時期に合わせたり、その他工夫すれば季節感のある楽しいお店作りが可能ではないかと思うのですが、その点いかがですか」

知る人 「一年十二か月をフル活用すれば、いろいろと変化に富んだ催事が組めそうなものだな。君の言う通りだ。さっき言った前年実績主義とも関わることだがね、まあ結局のところ、販促企画の力が足らんのだな。モノが有り余る時代と言われて既に久しいが、どこに行っても同じような商品が並んでいたら、誰だって買いやすい店=家の近所とか通勤経路にあるとかで買ってしまうね。そんな人たちに足を運んでもらうには、いい商品を扱うのはもちろんだが、行って良かった、また行きたい、と思ってもらえるだけの楽しい売り場づくりが欠かせないはずなんだな。小売店はこれができていない。相変わらずの実績主義だからな。だからネット通販に客を奪われるのだよ。君もよくわかっているように、ネットショップの強みは、品揃え・画面構成などの変更が自由自在でしかも速い。実店舗と違って、いくらでも修正がきく。だから飽きられにくいわけだな」

問う人 「だいたい、ネットで間に合っちゃうんですよねえ」

知る人 「だが、ネットには大きな弱点がある。商品に触れないことと、すぐ持って帰れないことだ。衣料品や靴など、体型に合わさねばならない物の場合、ネットショッピングには一抹の不安があるのも事実だね。実店舗の強みはそこだよ。それから、これも大きな要素だと思うが、売り場の活気だな。威勢のいい店員、礼儀正しい接客などは気持ちのいいものだ。それだけで、つい買ってしまいたくもなろう。スマホやPCも文字通り黙ってばかりはいまいがね、実店舗のようにはいかんだろうな。今は何でもスマホで買ってしまったりするが、実店舗でじっくり選んだ方が適している場合も多いはずだよ。消費者の購買行動も、過渡期なのだろう。流通の仕組みとしては、少しずつ役割分担が明確になり、すみわけができてくるだろう。その段階で、実績主義のマンネリ催事しかやっていない店は淘汰されるに違いない」

 

セールとか、バーゲンとか。そもそも何の為にあるのか

問う人 「バーゲンをやり過ぎたら儲からない、とのことですが、普通に考えますと、安く仕入れて高く売れば儲かりますよね。バーゲンで薄利多売するより、定価で買ってくれる上質なお客さんだけ相手にした方が、結局は得なんじゃないでしょうか」

知る人 「さっき私は、楽しい売り場づくりという話をしたね。これは品揃えや店の構えだけのことではないのだよ。来店客も常に新しくあるべきなのだな。新規顧客だよ。いつも来てくれる常連はもちろん大切だ、だが、その人たちだけではいずれ頭打ちになる。新しい商品、新しい売り方と同時に、新しい客も欠かせないんだ。そのためには、今まで来たことのない人に足を運んでもらわねばならん。口で言うのは楽だが、これはかなり難易度の高いことなんだ。馬鹿みたいに安く売れば珍しがって来るだろうが、そんなのは長続きせん。すぐ他の店に行ってしまう。まず足を運んでもらい、次に商品を手に取ってもらう。そうするには、品揃えと同時に価格設定も重要な要素だ。バーゲンの大切な役割のひとつだと言えるね」

問う人 「なるほど。でも何だか春より秋に安売りが多い気がするのですが、季節とバーゲンは何か関連があるのでしょうか」

知る人 「江戸時代までさかのぼるとだな、確か京都あたりの商人だったと記憶しているのだが、あこぎな商売で荒稼ぎばかりしていたことを少々申し訳なく感じたのか、せめてもの罪滅ぼしとして、客に利益を還元する=値段を安く売る、ということを思いついたらしいんだな。それが今の十月頃だったとのことだ。秋のバーゲンの起源はこういったところだね。これに、後世の商人たちがいろんな要素を加えていって、今の形になっていったのだね。ただ、安く売れば客が喜ぶ=結果として利益も増える、という点に気付いていた商人はもっと昔からいたはずだ。価格帯という言葉が表す通り、値段によって売れ筋も客層も変わる。安く仕入れて安く売るのもあり、タダ同然を超高価格で売る輩もありだ。結局、消費者が賢くなるしかないのだろうな」

問う人 「新手の商法が次々出てきますものね。自分の身は自分で守らなきゃ、って話ですね」

知る人 「そう。儲けるのはいいことなんだが、もうけ過ぎるとよくない。そんな商いのさじ加減を察知できる消費者を目指すのだね」

(了)

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