本を定価で買うのはナゼ
結論から問う。新刊本を買う理由とは
問う人 「古書販売サイトを利用していますと、新刊本を買うのが馬鹿馬鹿しくなってしまいまして」
知る人 「中古で出回っていないものなら、新刊を買う他なかろう」
問う人 「最新作とか、情報の鮮度が勝負といった分野であればわかるのですが、刊行から既に日がたち、古本として流通しているのにわざわざ定価で買うのが不思議でなりません。なぜなのでしょうか」
知る人 「そうだな、書籍についてよく知る人と知らない人とでは差があろうがね、まとめてみると次のようなことが言えるかな。
<古書としても流通している新刊本を定価で買う理由>
1)商品として新しいものが欲しい(他人の手に触れた物はイヤ)
2)こまめな改訂が入っており、中古流通本とは微妙に違う部分がある。だから最新が良い
3)中古は買わないという信念に基づく(所得水準の高い場合等)
4)いくつかの先入観による中古嫌い(書き込みがあって汚い、折れがある、等々)
5)中古で流通していることを知らない
・・・まあ、中古が嫌いな人はいるだろう、車でも住宅でも。そういうのは個人の好みだから仕方ないが、4)と5)については認識をあらたにすべきだと思うね」
問う人 「確かに汚い古本もありますけど、ちゃんとしたサイトなら傷についてのコメントと評価がありますから、それを見て買えばまちがいはないと思うのですが」
知る人 「そうだ。自己評価だから、なかには甘いのもあるがね。amazonのような大手なら、ほぼ間違いなかろう」
問う人 「問題は5)ですね」
知る人 「うん。本によっては、数千円の差がつくものもあるからね。中古に対するこだわりがないのなら、古本も利用するべきだな。特にだな、○つの習慣だの、出世する人は云々だのといった安易なノウハウ本ならば、すぐ二束三文のクズ本として出回るからな。定価で買う必要など皆無と言ってよかろう。ただ、老眼の人は気を付けた方がいいかもしれん。古過ぎるのは紙が悪い上に活字が小さいからな。画数の多い漢字など、目を近づけても離しても見えないこともある。字が大きければページ数が増えてやや重くなるが、見にくいのを我慢するよりはいいだろうしね。まあ、そんな難点がないのなら、古本屋を大いに活用すべきだね」
次に問う。古本ではダメな理由とは
問う人 「五つ挙げられたうちの、1)、2)、3)ですね、わからないのは」
知る人 「1)は議論の対象とはなるまい。個人の好みの問題だからな。車でもいるだろう、他人が座った運転席に腰掛けるのがイヤだという人が。・・・さて、まずは2)だがね、これはもっともな理由だよ。勉強熱心かつ責任感の強い筆者の場合、著作を常に一字一句見直しているからね、こまめに改訂されることがある。翻訳本にもそういうのがあるね。時流に合わなくなった表現を削除する例もあろう。原版と改訂版、さらにその改訂版など、変更点を比較することで、著者の意識の変化を探るという読み方もある。ひとりの著作者を時系列的に追いかけるなら、こんなやり方も楽しいものだよ。時間はかかるがね」
問う人 「それは上級者向けの楽しみ方ですね。そういうことだけではなく、古いと役に立たないのもありますよね」
知る人 「資格試験のテキストなんかはそうだな。古書店で何年も前のをタダ同然で売っていたりするが、あんなのはタダでもいらん。ゴミになるだけだからな。とりわけ、法律がかかわる分野は要注意だ。微妙な法改正が次の試験の合否を左右する場合もあるからね」
問う人 「3)はどうですか、信念に基づいて、中古を買わない人たち」
知る人 「まあ、信念と言うより、見栄だろうな。中古の安物を買ってると思われたくないのだろう。常に新品を買うだけの経済力があることを誇示したいのかもしれんね」
問う人 「先日、丸の内の丸善に行ったんですが、amazonやBOOK・OFFなら数百円のものを数千円払って買ってる人たちをたくさん見ました」
知る人 「丸善ぐらいになると、ひとつのブランドだからな。ファッションでいえば新宿伊勢丹みたいなものだろう。丸善で買ったということが、満足感につながるのだろうね。これは丸善側の企業努力の成果とも言えるから、一概に批判はできまい。漱石も足しげく通った店だからな。それに、いい本は新品で買いたいという気持ちもわからないではない。新しい本のページを最初に開く時は、何とも言えない緊張感や期待感、喜びなどが湧いてくるものだよ」
問う人 「そういう人は、全く同じのが中古で安く売られているとわかっていても、新品を買うんですね」
知る人 「いい店でいい品を手に入れたい。どんな商品でもこれは同じだろう」
出版不況の元凶とは
問う人 「新刊を売る書店と古書店とは、共存できる関係にあるのでしょうか」
知る人 「あらゆる分野に共通することとして、店の数が多過ぎたらダメだな。食い合いになって、弱い方が退散する。だが、過当競争でなければ、共存はじゅうぶんに可能だ。車を見ればわかるだろう。新品と中古、いずれにも需要がある。新刊が古本に食われたり、その逆だったりということは、健全な市場なら起きないはずだ」
問う人 「でも実際には、出版不況だとか言われてますよね。ナゼなのでしょう」
知る人 「目先の利益を追求する昨今の風潮だな。本というものは、面白い・つまらないのレベルで論じて終わりではない。知の世界への出発点であり、自己研鑽の第一歩だ。短期利益ばかり追い求めるから、じっくりとホンモノを育てているヒマがない。底の浅いクズ本が多く出回ることになり、ますます活字離れがすすむというわけだ。だから、ケータイ小説だの電子書籍だのといったお手軽分野に食われるんだな」
問う人 「出版社側の自助努力不足ですか」
知る人 「儲けようとするあまり、かえって負のスパイラルにはまり込んで出られないのだな。出版事業とは本来、宝くじのように一攫千金を期待するヤマ師的商売の対極にあってしかるべきものだ。出版人としての使命を自覚し、地道に読者の期待にこたえ続けた会社が最後に残るだろう。そうでなくてはいかんよ」
(了)