仕事が先か、休養が先か
【昨今の風潮なのでしょうか、職場ではやたらと休暇の取得をすすめられます。休め休め、とうるさいのです。もっと働きたいのに。明らかにワークシェア等とは無関係で、ただもう、社員を休ませようと。意味が分かりません】
知る人「君は働きたいのに、休暇をすすめられるのか。困った職場だね」
問う人「営業マンは先手必勝ですからね。遊んでたら負けるんです」
知る人「休みと言うのは、主に有給休暇かな」
問う人「そればかりじゃないです。休日出勤の振り替えとか、あと、リフレッシュ休暇といいまして、四連休を年二回とれることになっているんです」
知る人「年間休日数は」
問う人「リフレッシュを除いて124日あります」
知る人「てことは、四連休を二回使えば132だ。仮に有休を全消化すれば、一年の四割が休みになるね」
問う人「そうなんです」
知る人「多いね」
問う人「でしょう。営業の仕事は厳しいけど面白いんです。休みなんて週一回で十分だと思ってるくらいなんですよね。もっと働かせてくれるところに移ろうかな、なんて」
知る人「まあ焦るな。今以上に休ませてくれる勤め先なんてないのだから、いっぱい働かせてくれるところはすぐ見つかるさ。君、まだ30代だろ」
問う人「はい、33歳です」
知る人「じゃあ心配いらん。最近は福利厚生が充実している企業が多くなったね。保養所をかかえているのも当たり前みたいになったし、会社の金で海外旅行も珍しくなくなった」
問う人「そこまでしてもらわなくてもねえ」
知る人「人材確保のためだろうな。休んで当然、と考えている奴らばかりだ。困ったものだよ」
問う人「今後、僕はどうすればいいのでしょうか」
知る人「まだ独身だろ」
問う人「はい」
知る人「じゃあ、今のうちに自分のスタイルを決めておいた方がいいね。仕事人間なのが自分らしいと思うなら、それを確立しておこう。結婚して、子供ができる前にね」
問う人「なぜですか」
知る人「伴侶の意向は仕事に影響する。それに、子供ができると生活が急に変わるものだからな。必ず、子供中心になるよ。自由な時間が減ってくるし、授乳のタイミングによっては君の安眠が妨げられるのも珍しくはない。だから今のうちに、仕事と自分との間の距離を定めておくのだ。女房子供が介入してきても揺るがないような、君と仕事との確固たる関係を築いておくのだよ」
問う人「なるほど。確かに、子供ができたとたんにマイホームパパに変貌する人もいますものね」
知る人「家族構成がどう変わろうと、夫はバリバリ働きたい人なんだ、ということを女房に納得させておくことが大切なんだな。そのためにも、自分の年間休日数はだいたいこのくらい、と決めておく方が、あとあと面倒なことにならずに済むというものだよ」
問う人「そうですね。では、今の勤め先とは縁を切った方がいいと」
知る人「まあ早まるな。今の役職は」
問う人「いちおう<主任>というのをもらってますけど、ヒラとほとんど同じですね」
知る人「管理職になり、さらに経営陣に加わっていけば、忙しくなって休みが減る可能性はあるね。公休は同じでも、立場上、出勤せざるを得ないという状況が増えてくるはずだ。そうなれば、今ほど休めなくなるだろうね。上司をみていてどうだね」
問う人「そう言えば、時々土日でも得意先回ったり、家でも仕事したりしてるようですね」
知る人「だろ。休みが多いのはヒラのうちだけなのかもしれん。働いて結果を出して、認められれば仕事が増えて休みが減る。君にとっては理想的ではないかね」
問う人「言われてみればそうですね。今はペーペーだから、時間に余裕があるんですねえ」
知る人「休日が多いのは、移り気で何事も長続きしない昨今の若者を繋ぎ留めておくための策にすぎん。それに甘えて、ああ、ウチは休みが多くて楽だなあ、なんて暢気なことを言っているうちに、本当に実力のあるプロフェッショナルに追い抜かれ、年下の上司にへつらわねばならないようなことにもなりかねん。休むことは労働者の権利だと開き直っている連中が多いがね、多過ぎる休日は単なるエサなのだ」
問う人「権利ばかり主張する輩が増えましたよねえ」
知る人「いかにも。休暇というのはだな、身を粉にして働いた者にだけ与えられるものなのだ。働かなければ休みは無い。かつて田中角栄は著書のなかでこう述べている。
休んでから働くんじゃない、働いてから休むんです。
・・・<晩節を汚す>の典型みたいな人物だったが、職業人としては見習うべきところも多かったな。元首相の言う通りだよ。要するに、権利と義務のはき違えだな」
問う人「このことに限らず、そういったはき違えはいろんな点にみられますね」
知る人「平和にどっぷりつかり過ぎると、人間はこうなるのだな。我が国は怠惰の見本だよ。この風潮、あと10~20年以内に変えていかねばならぬ。何もしなければ、日本はやがて世界のお荷物になるだろうな」
問う人「まずやるべきこととは」
知る人「権利に生きるのをやめ、義務に従うことだ。そこからすべてを始めねばならぬ」
(了)
2055字。60分。