ひどい職場でも、良い仕事はできる
【理想に燃えて入った会社なんですが、上司も先輩も同期も、どいつもこいつもバカばかり。何でこんな連中といっしょに働かなきゃならないのか。そう思うと自分が情けなくなります・・・・・】
知る人「で、何だ、転職をしようとでも思っているのかね」
問う人「まだそこまでは考えてないのですが」
知る人「君は幾つだったかな」
問う人「35になります」
知る人「今の職場で幾つめかな」
問う人「ふたつめです。大学出て某食品メーカーに入社して、2年前に今の食品商社に転職しました」
知る人「メーカーから卸に移った動機は」
問う人「卸は薄利多売でやたら忙しいのですけど、多くのメーカーの品を揃えておかねばなりません。いわゆるプラットフォームのような役割ですね。そこからどんどん広げていけるという…」
知る人「メーカーは商品の排出だが、商社は配列だ。組み合わせの妙が最大の魅力であり、やりがいだからな。そこに魅かれたのだろう」
問う人「おっしゃる通りです」
知る人「ところが、入ってみたらバカばかり、か。しかし、もう2年経つのだろう。2年間どうしていたのだね、ひたすら我慢していたのかな」
問う人「そうですね。人をバカ呼ばわりするときって、まあだいたい、自分のことを棚に上げている場合が多いんです。だから、冷静になろう、できるだけ客観的にみよう、と自分に言い聞かせて、なんとかがんばってきたんです。でも、そろそろ限界かなと」
知る人「なるほど。確かに君の言う通りだ。他人がバカにみえるときというのは、自分もそれに劣らずバカだからな。なかなか冷静な状況判断だね。で、もう限界と言うのは、こんな連中のなかにいると、自分の実力が発揮できぬということかな」
問う人「ええ。それと、言葉は悪いですが、バカが伝染するっていうか、劣等人種に染まりたくないというか」
知る人「営業成績は」
問う人「自慢じゃないですが、ほぼトップクラスを維持できています。いちおう、幹部候補でして」
知る人「なるほどね。ということは、仕事は好きなのだね」
問う人「ええ、楽しいし、日々勉強することが次々出て来て気が抜けなくて、やりがいはありますね」
知る人「まあ、それだけ言えるならもうじゅうぶんだ。答えは出ていると言ってよかろうね。いいかね、少々暴論かもしれぬが、世の中と言うのは、バカの集まりだ。そのなかに、ごくたまにだが、まともな人もいる。君の職場は世の中の縮図だと思えばよかろう。どこに行ってもバカは大量に棲息しているのだ。勉強不足を自慢するバカ、世の中みな自分と同じく無教養だと安心しきっている丸腰のバカ、品格のカケラもない下品なバカ、働きもしないで権利ばかり主張する、いわば義務と権利のはき違えバカ、等々、種々さまざまなバカで世の中は溢れている。今の君がやるべきことはただひとつ、バカな連中全員が目を見張るほど猛烈に働き、常に好結果を出して、腕利きセールスとして業界に名をとどろかせるのだ。まわりがボンクラばかりなら、ちょっとがんばっただけでもすぐ目立つはずだな。周囲などに目もくれず、ひたすら努力して、人の何倍も働いてだな、誰にも文句を言われぬ絶対的存在を目指しなさい。バカに頭を冒されることなく自分を保つことができれば、今後どんな職場へいっても大丈夫だよ。鬼神の如く、疾風のように、すさまじい勢いで職場を駆け抜けていくのだ。邪魔する奴は踏みつぶしていい。今の職場に君臨しなさい。そうなれば、いい仕事がめぐってくるに違いない。今いる場所で精一杯咲く。職業人の心構えとして、これが最も正しいのだよ」
問う人「わかりました。明日から、いえ、今から、職場のバカ連中に有無を言わせない存在としての自覚を持って業務に臨みます」
知る人「そうだ。誰も見ていないようでも、神様は必ず認めてくださる。神慮に従うのだ」
(了)
1557字。40分。