テレビは愚民を量産する
【前回記事「テレビを見ると、バカになる」の続きです】
問う人「テレビによる弊害の、最も深刻なこととは一体何でしょうか」
知る人「ひとことで言えばだな、君、徳川時代の愚民政策とは何だかわかるかね」
問う人「百姓は殺さぬよう、生かさぬよう、ってヤツですか」
知る人「まあ、そんなものだ。だが、百姓だけではない。元禄文化を見よ。町人文化花盛りの時代のように歴史書は語るがね、それは要するに厭世観の先に咲いたあだ花に過ぎぬ。いくら小手先の処世術を見につけても、愚民は愚民のままだ。政権を揺るがすような動きにならぬよう、庶民をコントロールしていたのだな」
問う人「バカが知恵をつけると、為政者にとってはうるさいのでしょうね」
知る人「そうだ。その点、現代人は楽なものだよ。テレビだけではなく、動画や音楽など、いつでもどこでも娯楽が配信されてくる。我が国が直面しているさまざまな難問や、昔から続く未解決の課題などには目もくれず、ただひたすら遊び呆けていればいいのだからな。権力の側がそうせずとも、私たち庶民が自ら愚民の立場を維持しようとがんばっているのだから、全く話にならぬ。現代の戯画だな」
問う人「つまり、取り組むべき問題から目を背けるのに、テレビはおおいに役立っていると」
知る人「その通り。結果として、自分の頭で考え、自分の足で情報を集め、自分の責任で決断できる人間がどんどん減っていく。 一億総云々 という言い方は嫌いだが、まさにそうなっている。一億総愚民というわけだ。今ほど政権運営が楽な時代はなかっただろうな」
問う人「何でもやり放題ですものね」
知る人「為政者側が頼んでもいないのに、マスコミが片棒を担いでくれるのだからな。外交上の大問題よりも、タレントの離婚や飲酒運転を大々的に、延々と報道する。アイドルグループの解散を、まるで一国を揺るがすかのように大げさに扱う。 国民的○○ といった表現を多用するのも彼らマスコミの特徴だな。ああ言えば、それを知らないと恥ずかしいかのように思う者が必ずいる」
問う人「しかしですね、そうやってバカが増えると、結局は日本にとって不利益なことになりますよね。テレビ局の連中だって、国民がバカになれば困るでしょうに」
知る人「困らんだろう。彼らは視聴率を稼ぎ、スポンサー企業が喜んで広告料を払ってくれればそれでいいのだからな。国の将来を憂えていれば、あのように愚にもつかぬクズ番組を垂れ流すことなどできぬはずだ。彼ら自身、面白おかしく暮らせればそれでいいと思っているのだ。彼らもまた、愚民の重要な構成要員の一部なのだよ」
問う人「日本人の堕落をこのあたりで食い止めるには、やはり、テレビを見ないようにするのが一番でしょうか」
知る人「何事も、禁止するのは逆効果だね。反動が来て、それ以前より悪くなるだろうな。テレビに出ている恥知らずのタレントや芸人たちの醜い姿の中に、自分自身との共通点を見出せるようにならなければ、<現代の愚民政策>はまだまだ続くだろう。かつて、はるき悦巳氏の人気漫画【じゃりん子チエ】のなかに、こんなセリフがあった。
鏡を見ろ。そして、そこに映る自分を他人と思うんだ。答えのすべてがそこにある。
・・・これは猫のセリフだがね、現代に生きる私たちひとりひとりに向けられた言葉だと言ってよかろうね。自分がバカだということに、いつになったら気付くかだな」
問う人「それに気付かないようにすることこそ、テレビの役割ではありませんか」
知る人「そうだな。となると、ごく一握りの傑物に頼る他なくなってしまう。ますます民主主義から遠ざかるね」
問う人「でも、ボトムアップに期待できないなら、トップダウンしかないですものね」
知る人「いよいよ、何が起きてもおかしくない国になってきた気がするね。ここでちょっと話し合ったぐらいでは、この難題の答えは出ぬ。実践の積み重ねしかあるまい。今やれることを精一杯やって、時を待つということだ」
問う人「自分たちの出番が来ることを信じて、ですね」
知る人「憂国の士、というのは、実に苦しいものなのだ。必ずやる、いつか壁を越えてやる…そう信じて現実的な努力を怠らぬことだ。今言えるのはそれだけだよ」
(了)
1749字。50分。