公衆便所が使えない
【公衆便所が使えなくて困っています。以前、ものすごく汚いところで仕方なしに用を足して以来、自宅か職場以外ではトイレを使わないことにしているのです。公的な場なのに、なぜ汚すのでしょうか・・・】
知る人「公的な場なのに、とのことだが、公的な場だから、と言った方が正しいのではないかね。不特定多数が使用する場だからこそ、汚しても平気なのだな。自宅は言うまでもないが、職場でも、人数が限られているし、顔見知りだらけだから、うかつに汚せまい」
問う人「そうですよね、確かに。ワタシ、それほど潔癖な女じゃないんですよ。ほら、いるでしょ、他人が触れた部分は消毒しなきゃさわれないようなヒトが。ああいうのではありませんから。でも、公衆便所はイヤです。二度と不快な思いをしたくありませんので」
知る人「まあ、一度そういう目に遭えば、どこの公衆便所も同じだと思ってしまうだろうね。私も、いつだったかな、東京都内の某駅前の公衆便所を使おうとして、腰を抜かしそうになったことがあるよ。少々口に出しにくいのだがね、何と、大便を壁に塗りたくっているのだな。やった現場は見ていないが、まあ、どこの誰かは知らぬが、常軌を逸した行為としか表現のしようがない。他人に不快感を与えるのが趣味なのかもしれぬが、しかしねえ、ずいぶんと労力の要ることだろうし、なぜそこまでするのか・・・まったく理解し難いよ」
問う人「ワタシの場合、そこまでではなかったですけど、ややそれに近いですね。だあれも見ていないから、規制のしようがないんでしょうね。おトイレにまでわずらわしい規則を持ち込まれてもイヤですしねえ。ああ、難しい世の中」
知る人「トイレに限ったことではなく、公の場というのは荒らされやすい。さきほど言ったように、誰でも使えるからね。我が国には、何の為に税金を納めているのか理解していない国民が多いようだが、まさにその裏返しだな。否、延長と言った方がいいのか。まあ、表現が適切かどうかは置くとしてだな、とにかく、公共の精神が貧弱なまま、群集心理だけが独り歩きしていると言ってよかろうね。ちょっとぐらいいいだろ、自分だけならいいだろ、誰もいないのだからいいだろ、という心理が全国レベルで慢性的に作用し続けている。町内のゴミ置き場を見なさい。捨ててはいけない日に、粗大ゴミや危険物などを投棄する輩が必ずいる。こういう連中に限って、咎められるとこう言うのだ。
自分は納税者だからね。当然の権利だ。
・・・公共の精神などカケラも持ち合わせておらぬ輩ほど、納税者であることを強調したがる。いないかね、君のまわりには」
問う人「いますいます、今思い出せるだけで5~6人は。自分の権利ばかり主張するクセに、<公>という概念をうまく隠れ蓑に使ってる不届き者さんたち。イヤですね」
知る人「どうすれば、こんな世の中を改められると思うかね」
問う人「そうですね、やっぱり、教育かしら。しつけ、と言った方がいいのかな。たくさんの中で生活してるひとりなんだっていう意識を持たせるには、ちゃあんと教えなきゃダメじゃないかと」
知る人「それは、家庭でも学校でも抜け落ちている部分だな。親は我が子を守ることしか考えておらぬし、教師は昔のデモシカ教師よりさらに低レベルなサラリーマンセンセイばかりだからね。子供は国の宝であり、次代を担う貴重な礎であるという認識が、社会全体に希薄なのだ。ちょっと考えればわかりそうなものなのだが、1億もの国民がそれぞれ勝手に行動すると国はどうなるか、世の中はどれほど混乱し住みにくくなるか、」
問う人「結局、今ここにいる自分だけがすべてなんでしょうね。近視眼的どころか、ほぼ盲目的だわ」
知る人「近所同士で監視し合えばいいのかもしれぬが、戦前の隣組のようになっても困るからな。ただでさえ、わが国はどちらかの極に振れやすい体質を有しているのだから、”令和のゲシュタポ”が繁殖しかねない。適度にタガの引き締まった社会にするには、 お互いさま の心を多くの人々が自分のものにするしかないのだろうね。どれだけ時代が進もうと、身勝手な輩は死滅せぬ。常識人が多数派を形成するように働きかけていくしかあるまい」
問う人「どんな場合にも言えることだと思うんですけど、世の中って、違法行為を裁く方がよほど楽ですね。違法か合法かはっきりしないグレーゾーンにこそ、悪い虫がいっぱい繁殖するんだもの」
知る人「公私の区別もそうだな。はっきり線を引くと窮屈になる。ずるがしこい連中は、そこを狙って自分の居場所を確保するのだよ。困ったものだ」
問う人「お互いさま教っていう経典でも作ろうかしら」
知る人「ほう、試作品ができたら読ませてくれ」
(了)
1921字。