習慣は最良の友
【バカな質問ですいません。実は、日記帳を書くのが続かないのです。三日坊主どころか、一日で終わることが何度もあって、その都度、ああ自分は根気がないなあって反省するんですね。どうすれば続けられますか】
知る人「バカな質問ではない。君のような人は全国津々浦々に至るまでまんべんなく分布しているはずだ。気にしなくていいよ」
問う人「はあ。そう言っていただくと少し気が楽に・・・でも、根気がないのは確かですよね。僕は今年から大学生になったんで、時間はあるんです。なのにできないなんて」
知る人「日記を書こうと思った経緯は何だね」
問う人「小学生の頃、先生に言われて、毎日書かされてたんです。高学年になってやめてしまったんですけど、これを最近読み返してみて、そうか、この頃の自分はこんなこと思ってたのか、こんなことが好きだったのか、って、いろんな発見があるんですね。それで、もう一度始めてみようって」
知る人「いい動機だ。そうだな、書けない理由のひとつとして考えられるのは、小学生時代の自分と比較して、もうじきハタチなんだから、立派なことを書かなきゃって、妙に構えてしまうのではないかね。どうだい」
問う人「ううん、それはありますね。7、8歳のときの文章と並べてみて、あまり変わってなかったりしたらイヤですし。うまく書かなきゃって考えますね。それがいけないのかなあ」
知る人「そうだね。三行日記なんてのを薦める人もいるが、まあ、行数は別としてだな、いきなり長くまとまったものを書こうと気負わない方がいいね。スポーツは好きかい」
問う人「はい、特にテニスが」
知る人「それなら、例えば<錦織、無事初戦突破。第二戦の相手は○○>だけでもいいのではないかな。箇条書きを続けているうちに、徐々に中身が伴うようになってくるだろう。トピックは一つでいいのだよ。一から始めて、二、三…と増やしていく方が長続きする。いきなり盛り沢山でスタートしても、あとは尻すぼみになるのがオチだ。頑張り過ぎないのがコツだろうな」
問う人「なあるほど、そう言われてみると、何だかできそうな気がしてきました。さっそくやってみます」
知る人「毎日何かを続けるというのは、簡単なようで難しいものだ。他に何か、日々繰り返し続けていることはあるかな」
問う人「そうですねえ。時々ならありますけど、毎日となると、なかなか」
知る人「使い古された言葉でもう聞き飽きただろうが、昔から<継続は力なり>と言うね。なぜこんな言葉が語り継がれてきたかわかるかね」
問う人「さあ。それだけ大事な考え方だから、ですか」
知る人「コツコツ続けられる人が少数派だったからだよ、昔も今もね。とりわけ昨今のご時勢はそれが顕著だと言わねばならぬ。ブロガーだのユーチューバーだのと、ろくに修業も積まずいきなり富を手にする輩が現れただろう。バブルの頃も、1分で1億稼ぎましたなどと豪語するにわか成金が世間を賑わせたものだが、現代の小金持ち連中も、いずれは消えていくだろう。一人がいい思いをすれば、幾百の追随者が押し寄せてくるのが市場主義社会の常だからな。再びバブルの話になるが、多くの企業や個人が我れ先にと土地転がしやら何やらであぶく銭を手にしている時でも、イトーヨーカ堂創業者の伊藤雅俊氏は、本業に徹していた。それが今のセブン&アイ対イオンという二強時代を築く礎石となったのだろうな。まあ、君が将来どんな社会人になるかわからぬが、群衆が殺到する入り口は避けるのが得策だと言っておきたいね」
問う人「何かをコツコツ続けて、少しずつ積み上げていけ、と」
知る人「そう。ごぼう抜きレースは、見世物としては面白いが、結局は疲れるだけだ。じりじりと時間をかけて追いつき、やがて追い越す。油のように滲み出ていくのが、社会進出のやり方として最も適切なのだよ。逆転満塁ホームランを年間140試合通して打ち続ける打者はいない。自分の好きなこと、将来やってみたいことなど、取り組みやすい何かを選んで、毎朝でも毎晩でもいいから、続けるのだ。そうすれば、学生のうちは友人たちと変わらぬとしても、社会に出てから確実に差が出てくる。いいかね、僅差の積み重ねほど強いものはないのだ。いばらの道であっても、薄皮を少しずつ積み重ねていけば渡れるようになる。目先の成功に惑わされてはならぬ。人生は長期戦なのだ」
(了)
1782字。