【よろずのことわり】百回記念特集・劣化する日本人(2)

【前回の主旨:商業主義が隅々まで浸透した今の日本では、人・モノ・カネの流れが異常なほど加速しており、それが一攫千金・一発芸・即戦力といった ”脱・下積み” 化へと直結、コツコツまじめに働く者が希少な国に成り下がった】

 

 

知る人「上の要約に含まれていないので補足するとだな、下積みを否定した結果主義というものは、あぶく銭と言ってもいいほどの短期的利益しか生み出さぬ。国家百年の計の上に立った事業に取り組む起業家・企業家などほとんどおらず、今儲かればいいという近視眼的態度が主流だ。これは現代を生きる私たちの人生観等につながる根の深い難題なのだ・・・というところだな、前回は」

問う人「そうですね。その、深い根っこの部分を今回は掘り下げてみようと」

知る人「今の私たちの生活様式は、すべて20世紀に形作られたと言ってよい。それは一言で言えば ”使い捨て生活” だ。買っては捨てるの繰り返し。飲食物にしても、腹を満たせばいいという不健康な食事観に支配され、巧妙な味付けで良質品の如き仮面をかぶったファーストフード全盛の風潮を許す結果となっている。これは、食べては排泄するの繰り返しだから、使い捨て消費の飲食版だな。このような消費傾向は、モノの生産を軽視する人間を大量に産みだす。スマホなどの ”手段” ばかりが発達し、情報の流れを捉えることが生活の全てであるかの如き勘違い生活者が大増殖してしまった。これが企業の生産拠点の海外移転や海外企業への外注の流れを加速させた。その過程で<クールジャパン>などという妙な考えも登場、サブカルチャーを主舞台に引き上げることで我が国にあらたな仮面をかぶせることに成功しつつあるのが現状だ。生産立国など過去の話で、日本全体が巨大なポータルサイトの如き様相を呈している。楽して稼ぎたい連中のための草刈り場であり、ますます使い捨て消費を煽り続ける。20世紀の英雄は21世紀の悪人だなどという言葉もあるが、なんのことはない、今世紀もやはり彼らの多くは英雄のままだ。世はあいもかわらず新技術の開発、新産業の創出等、現状の上に何かを乗せることしかしようとせぬ。社会の基盤が揺らいでいるのだから、今こそ国民一人一人の生活観を大きく変え、前世紀から続く潮流を変える大転換点にあるというのに、その自覚を持つ指導者は皆無だ」

問う人「でも、新技術や新産業が起これば、使い捨て消費の現状を変える力になるのではありませんか」

知る人「問題点が二つある。まず、消費スタイルが同じということはだな、新技術で生み出された商品・サービスもやはり使い捨てだ。次に、社会の隅々に根を張る既存勢力の巻き返しが猛烈に起こり、消費スタイルの変わらぬ消費者は、新旧それぞれを併用してお茶を濁す。結果として両勢力が共存、仲良く利益を分け合ってめでたしめでたしというオチだろうな」

問う人「消費者が徹底的に変わらなければ、結局何も変わらないってことですね」

知る人「そう。だが、消費者はそう簡単には変わらせてもらえぬであろう。世界を支配する金融の流れは、資産の休眠・温存を決して許さぬ。さまざまなリスクを提示し、資産の運用・移転が今いかに必要か、何もせず保有することがどれほどの罪悪であるか、と大小の資産家たちを煽り続けている。社会に必要な企業への地道な投資より、きょうあすにでも値上がりしそうな時流便乗型企業や事業への投資・出資を推奨する。おおもとの流れがこれだから、下流域に位置する企業群はいずれも短期利益しか追わぬ。今さえ良ければ、という よこしまなこころ に囚われた経営者たちが、努力を厭う安易な消費者たちの現実逃避性向を見事に捉え、使い捨て消費傾向はめでたく温存されるというわけだ」

問う人「人生百年時代、と昨今さかんに言われますが、あれは潮流を変える節目になり得ませんか」

知る人「過大な期待は禁物だ。むしろ、現状に手詰まり感を覚え、目先を変えたがっている短期利益志向者に飛躍の機会を与えることになろう。長生き、と聞けば真っ先に<健康>という言葉を思い浮かべるだろうが、実際には、手垢にまみれた不健康な商品・サービスが跋扈することになる。辛抱を忘れた私たち現代人が、百年もコツコツと何かし続けると思うかね。そうではなく、短期的安楽の追及を数十年単位で延々と繰り返させるのだよ。百年時代とは、今さえ良ければいいというのが百年続くというのに過ぎぬ。国家百年の計の上に立った事業が登場する土壌が、それによって整備されるか。まず期待薄だな」

問う人「よこしまな連中に活躍の場を与えてしまう結果に終わるのでは、という予測ですね」

知る人「そうだ。だが、世の中どこもかしこも馬鹿ばかりでもない。良心的生活者は必ずいる。彼らにとっても、百年時代というキーワードは、使い方次第ではおもしろい世の中を作るきっかけになり得るのだ。さきほど私は<健康>と言ったね。これは人間すべての主要関心事だ。不健康に憧れる人間はおらぬ。誰でも丈夫で長持ちする人になりたいに決まっていよう。誰しも大切なのは自分自身だ。家族だの恋人だのと言っても、結局は自分が可愛いものなのだ。よこしまな企業群の勢力を打ち破る方策の有力なる一つとして、このあたりを攻めてみるのが現実的で、かつ、おもしろくてやりがいもあるというものだ。<健康>をどうやって使い捨て消費社会打破に繋げるか。次回にそれを検討していこう」

(了)

2221字。

 

 

 

 

 

 

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