民主主義に対する挑戦だと?

【安倍・元総理が殺害され、多くの著名人などが「民主主義に対する挑戦」「民主主義の敵」と、今回の蛮行をいっせいに非難しています。でも、犯人がいわゆる民主主義というものを意識して犯行に及んだとは思えないのですが・・・】

 

 

知る人「犯行の動機は、母親の宗教云々、とさかんに報道されている。まあ、元首相を標的に選んだのだから、何か他にもあるだろうが、少なくとも、戦前の五・一五事件と並べて論じるようなものではあるまい」

問う人「最近の殺人事件って、哀しいくらい浅はかな動機で起こりますよね。今度もその類いかな、と」

知る人「そうかもしれぬな。元首相と言えば、第一級の政府要人だ。それを第一の標的にしていなかったという点を考えると、政治思想的な動機とは思い難い。私情の延長線上で起きた、意外と単純な犯行かもな」

問う人「民主主義に対する挑戦とか、民主主義の敵とか、おおげさな気もするんですが、どうでしょうね」

知る人「おおげさだろうな。安倍氏の政治信条や過去の実績への反感からやったのであれば、そう言えるかもしれぬ。だが、亡くなった氏には申し訳ないが、『安倍でも狙ってみるか』程度だったのではないかな。いかにも軽薄な現代らしい事件ではないかね」

問う人「世の中しばらくはこれ一色でしょうね」

知る人「手を変え品を変えて、かなり長期にわたって続くだろうな。良い面と悪い面のはっきりした人物だったから、さまざまな角度から論じられ、そこから枝葉が次々と派生して、俗説が乱れ飛ぶであろう。…まあ、安倍氏の政治家としての評価や、個人としての人格などは、この際どうでもよい。問題は当記事の表題にある ”民主主義” という言葉なのだ」

問う人「何が問題なんですか」

知る人「そのような言い方は、我が国が民主主義の国だとの前提に立っている。だが、実態はどうだ。わたしたち日本人が長い歴史の中で学ばなかった最大のもの、それが民主主義なのだ。昨年の東京オリンピックを思い出すがよい。今も盛んな新型コロナウィルスへの対応もそうだ。主人公たる民衆がどこにいるというのかね。すべて、すべて上からの力で動いてゆく。民衆はただそれに従うだけではないか。わが国の領海を狙う中国を見よ。彼らは日本人の大先輩だ。今も昔も、中国に民主主義はない。我が国もまったく同じである」

問う人「つまり、今回の犯行は、民主主義に対する挑戦などではない、と」

知る人「そう。為政者に付き従うだけの人民の国で民主主義に対する挑戦をしようとするならば、それは、真の民主主義を命がけで築く闘い以外にはあるまい。どこを見ても、敵だの挑戦だのと騒いでいるから、わが善良なる日本人は、自分たちは民主国家にいると錯覚してしまっておるに違いない。いざというときには口をつぐむ、ようやく声を上げても軽くかき消されるか無視される。わたしたちはそういう国に住んでいるのだ。暮らし向きが良くなり、いちおう普通に暮らせるようになったから、ここは平和な国だと皆安心している。だが、一国平和主義は当の昔に崩壊し、法改正でもなんでも、為政者・権力者たちのやり放題だ。わたしは憲法改正に賛成する者だが、今のように、大衆が馬鹿なままでいるうちに強行してしまえ、という姿勢には断固反対である。ウクライナを例に出すまでもなく、今や第三次世界大戦すら非現実ではなくなりつつある。かくも危険な、まさに一触即発の時代にあって、わたしたち日本人は、まだ何とかなるとぼんやり思い込んでいるのだよ。恐ろしい民族だ。入国審査は簡単で、スパイもテロリストも出入り自由。ロシアの潜水艦は、日本の領海を自宅の庭みたいにのびのびと航行している。北朝鮮は、まるでゴルフの打ちっぱなしのようにミサイル実験を繰り返す、わが国に向けてね。十数年後、沖縄は中国領かもしれぬ。北海道の基地周辺を中国企業が買いあさっているのは周知の事実だね。もうこのあたりでやめるが、ここまで他国にやりたい放題やられ、民衆の安全・安心が脅かされ揺さぶられていながら、わたしたちはやはり、為政者・権力者に従うことしかできぬ」

問う人「闘い方もわからないのでしょうね」

知る人「否。闘う必要などまったく感じてはおらぬ。いつまでもどこまでも、自分たちの国は平和なのだよ。わたしたちの意識の中には、楽園のような日本国が常にある。外周がどんなにかき乱されようとも、こころの楽園は安泰なのだな。イヤなことは、動画サイトのメニューを変えるように、テレビのチャンネルを変えるように、視界から消してしまえばいいのだ。地球上には200以上の国家があるそうだが、もしかしたら、世界一おめでたい国かもしれぬ、わが日本は」

問う人「これからどうすればいいのでしょうか」

知る人「まずは国政に参加せよ。有権者としての義務を怠ってはならぬ。次に、本分を尽くせ。八百屋は新鮮な野菜を売れ。床屋は精魂込めて客の髪を切れ。同時に、一番好きなことに全力を注げ。そうしてから、あらためて周囲を見渡すのだ。おのれの足元を見つめるのだ。ここで感じるであろう、(おかしいぞ、自分はもっと自由に動き回れるはずだ)と。この違和感こそ、わたしたちを蝕む悪の影にほかならぬ。国家のためなどと考える必要はない。誰かを守るためでなくともよい。自分だよ、自分。自分が最大限自由に、天与の才を生かしてのびのびと躍動するために、環境を変えるのだ。四方八方に伸びようとしている自らの可能性の邪魔をする勢力を粉砕しなければならぬ。これから世の中は確実に悪く不穏になってゆくであろうが、とにかく今は義務を果たし、権利を行使する時期だ。そうして力をつけた個人が、次の時代の主役になるであろう。行く手にいかなる障害物があろうとも、ひたすら前進せよ。自分を信じるのだ」

(了)

2374字

 

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