誰もが口にする<昭和>について考える

【昨今の昭和レトロブームに対して、どうにも違和感を覚えてなりません。「昭和の風景」「昭和の女」「昭和の考え方」等々、いずれも高度経済成長期かそれ以降を指していますよね。60年以上続いた昭和時代の、どこが<核>なんでしょうか】

知る人「つい最近、40代の女性が、SNS上でこう言っていた。

私、昭和の女ですから…

…昭和の終盤に、まだ女の子だった人だな、それがこんなことを言う。何の臆面もなくね」

問う人「まあ、昔を懐かしむのは人の常だし、ある程度の年齢になれば、それもまたいいかな、なんて思うんです。でも、それとこれとは別物という気がして」

知る人「君が指摘した問題の中には、戦後の我が国の抱える悪しき症状が、はっきりと表れている。おもに二つだ。

1)経済成長とそれに伴う暮らしの変化こそ、昭和時代の中心である。

2)上記以外のもの、とりわけ負の側面を強調せねばならぬような歴史については、まるでなかったもののように無視する。言ってみれば『クサイものに蓋をする』式の行動類型だな」

問う人「経済発展の陰に隠れている環境破壊や朝鮮・ベトナム動乱は、まったく顧みられることはなさそうですね」

知る人「それより何より、昭和という時代の根幹はどこにあるのか、という認識が、異常なほどにずれている。昭和20年前後、わが国は民族存亡の危機を経験した。わたし自身も戦後生まれだから、じかに体験したのではない。だが、それを知る材料には事欠かぬであろう。昭和の最後は64年だが、数日で終わったからな、便宜上、63年としておこう。この中で20年と言えば、たった三割程度だね。だが、その重さたるやどうだ。聖戦だ侵略だと今も議論は続いているが、どちらにせよ、われらやまと民族が初めて体験した大戦争だったことに間違いはない。それに耐え、それを生き延びた人々が、すっかり高齢化したとはいえ、今も健在だね。が、昨今の昭和ブームは、戦乱期を生き抜いた彼らの受難の日々を完全に無視している。戦闘行為としては最大の悲劇を生んだ、あの沖縄でさえ、そういった教育があいまいなのだな。最近の政治家の不適切発言に対する沖縄側のぼんやりした対応で、それが明らかとなった。そんななか、あらたなテーマパークが開園するね、沖縄に」

問う人「あれ、もうしたんじゃないですか」

知る人「よく知らぬ。まあよかろう。ひろゆきというタレントが沖縄を侮蔑しても、世間の反応は鈍かった。もちろん、生きるか死ぬか、しかも価値観の大転換を迫られた時期の苦難の記憶など、さっさと振り払って前に進みたいであろう。あたり一面焼け野原、あっちにもこっちにも黒焦げの死体…こんなのを ”懐かしく” 思い出そうとする人などおらぬ。忘れてしまいたいに決まっている。でも、成長発展という正の側面と同時に、その陰にうずもれそうな負の側面も、われらは等しく引き継がねばならぬ。戦争に勝った負けたといった勇ましい話ではなく、外国との戦争のため多くの人命が失われ、それ以上に多くの人々の人生が根こそぎ変わってしまったという、枉げようのない事実だ。これを受け継がず、その後の劇的な発展とその成果だけを享受する姿勢は、日本人として恥ずべき態度と言わねばならぬ」

問う人「発展の陰、っていうか、その基盤の部分には、米軍の存在が欠かせませんよね」

知る人「いかにも。かつて熾烈な戦いを繰り広げた相手・アメリカ合衆国。広島と長崎に原爆を落として無差別殺戮をやったアメリカ。東京はじめ多くの都市の寝込みを襲い、罪もない市民を数百万も焼き殺したアメリカ。わが同胞を殺したのと同じ武器を持ったかつての敵国が、今、日本国内で自国領のようにして自軍を展開させている。戦後日本の繁栄は、このことを抜きにしては語れぬはずだね。でも見よ、自衛隊機に英語名をつけて喜んでいるのが現状ではないか。まあ、これはまた別の話としてもだな、要は、アジア太平洋戦争の体験を、まるでなかったかのように昭和を語るな、と当サイトは言いたいのだ。歴史は連続している。過去があって、今がある、そして未来がある。われら日本人よ、筋を通すのだ」

(了)1719字

 

 

 

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です