大成功、大阪万博
【会期満了が近づく大阪万博。成功裡に終わるのは間違いない。開催前はさんざん反対し批判した人々も、いざ始まってみれば、押すな押すなの列に加わっていた。四年前の東京五輪のときと全く同じ結果が見えてきた】
知る人「会場行きの交通機関が乱れた他は、とりたてて問題もなく、円満に終わりそうだな」
問う人「税金の無駄遣いなどと批判して反対の声を上げていた人たちも、結局は楽しんだのでしょうね」
知る人「まあ、そういうことになろうな」
問う人「じゃあ、いったい何のために反対したのでしょうね」
知る人「賛否入り乱れこそ民主主義だとでも思っているのであろう。おそらく、スポーツのあとのような爽やかさを感じているのではないかな」
問う人「なるほど。自分は精一杯反対したんだ、闘ったんだ、と」
知る人「そう。テレビを先頭に、マスコミがいい例だろう。批判的論調が影をひそめ、まるで別人の如く、万博総力取材ときた。あとは主催者側の思い通り。テレビお得意の美談なども掘り起こされ探し回られ、さあぼくもわたしも大阪へ、という空気が全国を支配した。日本維新の会も関西財界も大喜びだ。わが国に民主主義が存在しない、というのは、五輪とコロナがみごとに証明してくれた。そしてこのたび、それを上書きする事例が増えたわけだ」
問う人「前回、つまり1970年の万博はどうだったのでしょう。やはり賛否あったのでしょうか」
知る人「もちろんだよ。まあ、あのときはこの私もまだ幼かったのでね、詳しくはあとから知ったのだが、1970年という年は、日米安保と明治百年という大きな課題を抱えた時期だった。いずれもいつか来た道、つまり国家主義、軍国主義へと傾斜するのを警戒した人々が危険視する難題だったのだな。こんなとき、万博のように派手なお祭りが必要なのだ。国民の関心をそらし、経済発展を続けるわが祖国を誇りに思う国民を増やす絶好の機会だった。今回も見よ、在日米軍優遇、軍備拡張、そして昭和百年だ。課題はまだまだある。前万博のときより、世界ははるかに複雑であり、わたしたちの暮らしも個性豊かなものになった。平和慣れしたわれら日本人は、波風立たぬ状態を何より好む。いちおう反対の姿勢を示して、うわべだけ形だけの民主主義を味わえば、あとは平穏無事かつ安定した経済状態でなければならぬ。ああ万博は楽しかった、行ってよかった、と、現代特有の口コミも広がり、維新が宣伝せずとも、民衆が大阪に人を集めてくれる。このたびの万博がもたらしたもの、それは東京五輪とコロナが教えてくれたわが国の民主主義の不在という事実を、あらためて確認することができた、という一点に尽きる」
問う人「こうなればもう、為政者や財界はやりたい放題ですね」
知る人「さよう。はじめは反対しても結局は協力してくれる、とわかっているのだからな。コロナ➡東京五輪➡大阪万博。民主主義の不在を示す事例がわんさと増えた21世紀前半を、後世の人々はどう見るだろうな。ああ、今の惨状は、この頃から続いているのだなあ、このとき始まったのだなあ、と嘆くことであろう」
(了)
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