9月1日、ホントは何の日
【毎月9月初日は<防災の日>とされている。1923年の関東大震災が起きた日だからだ。が、斎藤美奈子氏がコラムで指摘されている通り、<関東大震災の日>であるべきなのだ。ここにも負の遺産を避けたがるわれらの特徴が表れている】
知る人「企業や病院、福祉施設など、この日に避難訓練をやっているところは多い。このことを思えば、決して無意味な日ではないのだがね」
問う人「そうですよね。この日のおかげで、消火器の扱い方を覚えた人だっているでしょう。まあ、これはこれで意味のある日だと言えますよね」
知る人「いかにも。唯一の問題は、102年前に未曽有の大災害が起こった、ということだ。この一点に尽きよう。名称を変更するのが難しければ、せめて、102年前に起きた惨事について、天災・人災含めてひと通り学び考える時間を設けるべきなのだよ」
問う人「もともとは、関東大震災の記憶を風化させないためだった、と聞いてますが」
知る人「制定された当時の空気は読めぬが、おそらく、大地震ということそのものを忘れさせぬためのものであって、デマの犠牲となって朝鮮人が虐殺されたなどといういわば ”負の遺産” は忘れさせたかったのだろうな。クサイものには蓋をせよ。これがわれら日本人の行動原理だ」
問う人「でも、関東大震災と聞けば、ほぼ連鎖的に朝鮮人の件が出てきますよね。あそこだけ切り離して記憶にとどめようってのは、どうにも無理がある気がしますね」
知る人「さよう。だから<防災の日>なのだよ。さらにもうひとつ、戦後日本特有の、忘れてはならぬ視点がある。需要と供給だよ。防災関連の商品が売れる。新たにできた資格<防災士>は、いまや小学生にも受験者が出ているほどの人気資格だ。しかも、災害という切り口ならば、人災まで含めた場合、極めて広範囲のものとなろう。売れる商品サービスも多岐にわたる」
問う人「話題もさまざまなのを掘り起こせるから、マスコミは仕事しやすいでしょうね」
知る人「そのいい例が、つい先日明らかとなった千葉の津波避難塔の問題だろう。錆びついて使えなくなっているらしいがね、こういった話題を見つければ、ジャーナリズムのお手軽な正義感と市場経済の論理双方にとって利益となる。じっくり落ち着いて検討すれば、まだまだいろんなものが出てくるであろう。事程左様に、防災という切り口は、消費者国家ニッポンにとっては実にオイシイ言葉なのだな」
問う人「朝鮮人のことなどを思い出させず、ただ純粋に災害対応を学び、それに必要なものを買いそろえればよい、ということですね」
知る人「さよう。とりわけ、昨今の時代を象徴する噴飯物の日本語『日本人ファースト』を刺激することにもなるだろうな、人災についてまじめに議論すれば。参政党の連中は、過去を美化してわが国に ”誇れる国、日本” という鍍金をほどこそうとやっきになっている。無知無気力に陥った若者層の支持を集めるには最適の方法だからな。朝鮮人虐殺の事件を掘り起こせば、これを現代のクルド人などの異民族問題と絡め合わせて論じ立て、たちまちのうちに、そんな史実はなかった、という結論を導くだろう。或いは、実際に朝鮮人が井戸に毒をまいたのだ、と、まるで102年前に戻ってみてきたかのように主張するに違いない。このようにだな、まじめに議論すれば、各方面を刺激する話なのだな、関東大震災という史実は」
問う人「なるほど。だから防災の二文字にとどめておこう、と」
知る人「そういうことだ。戦後日本を分析・研究する上で、これはかっこうの題材となるだろう。負の遺産には蓋をし、明るみに出たものはすべて市場原理で処理してしまう。これぞ米国による占領統治の最大の成果と言えるであろうな」
(了)
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