タワマンと北方領土

【超高層マンションが、全国に乱立している。住宅街等ににょきにょきと建つその姿は、まるで太古のシダ植物の名残りのようだ。それは同時に、経済最優先社会の象徴的存在でもある。景観破壊の急先鋒、いずれあなたの街にも…】

 

 

知る人「二年ほど前の情報によれば、全国の半数が一都三県に集中しているそうだ」

問う人「しばらく前ですけど、テレビで東急目黒線武蔵小山駅界隈の特集を見たんです。静かな町にいくつもどーんと建っていて、しかもまだ別に計画が進行中とのことでした。地元の方々、不安そうでしたね」

知る人「タワーマンションとは、二十階建て以上を指すのだそうだ。まあ、かくも巨大な集合住宅ができて喜ぶのは、当の業者とその住民、物件の建設に当たり儲かった地権者たちぐらいなものであろうな」

問う人「まだ一棟もない都道府県もあるらしいのですが、時間の問題でしょうね」

知る人「なんせあれは商品だからな。売れそうな地域ならどこにでも建つであろう。近隣諸国と比較しても、わが建設業界の有する耐震技術は群を抜いている。韓国の地震のとき、日本の建築物は倒れなかったとの話もあったね。だが、ここ数回の台風などにより、それでも水害には弱いことが露呈された。雲を突くが如き高層建築が、災害大国であるわが日本に乱立されてゆく現状、どう見ても疑問を抱かざるを得ぬ」

問う人「地震でエレベーターが停止されれば、高層階の住民って、まるで離島の島民みたいに孤立してしまいますよねえ」

知る人「災害への備えは万全みたいなことを業者側は主張するだろうが、実際には君の言うとおりだな。あれはあくまで平時のもの、波風立たぬ平和な状態しか想定されておらぬ」

問う人「まあ、それでも、行政が建設を認可するんですから、どうしようもないですね」

知る人「常に経済原理が優先されるからな。儲かるなら何でもやるという姿勢は、軍拡路線を経済発展へと大きく舵を切った戦後日本の揺るぎなき行動原理だ。高くても三階建て住宅しかなかったおだやかな町に、突如降ってわくが如くにタワマン建設計画が持ち上がり、地元住民の反対運動は開発側の巧みななし崩し戦術により骨抜きにされて、やがてめでたく21世紀のシダ植物の出来上がりというわけだ」

問う人「この夏の猛暑でも、パリではエアコンの室外機が景観の邪魔だという理由で、なかなか設置させてもらえなかったそうですよね。都市の景観に対するこの認識の違い、いったいどこから来るんでしょうか」

知る人「そうだな、『売り上げはすべてを癒す』というのが商売人の基本精神だからな。不統一で醜い景観を有する町となっても、そこに大枚をバラまいて行ってくれればいい、とそろばんを弾いた結果だ。北欧の勇者グレタ氏のような人物でも現れぬ限り、こういった傾向に歯止めがかかることはないかもしれぬ」

問う人「景観は壊れるし、災害対策にも邪魔だし、ホント、ごく特定の人たちだけの利益のために、大多数が犠牲になるんですねえ」

知る人「さよう。ここでようやく本記事の表題について語るわけだがね、ロシアが火事場泥棒の如き卑劣な手段でわが国から奪い去った北方四島についてだ。仮に今これらが日本に返還され、ロシア側住民が本国に退去したと仮定してみよう。まあ、極めて望み薄な話ではあるがね。そうなればだな、いまだ手つかずの自然が残っていると言われる北方の島々が、そのように美しい姿をいつまで保っていられると思うかね」

問う人「まあ、それこそ時間の問題でしょうね」

知る人「さよう。国後や択捉ににょきにょきとタワマンが建ち始め、見る見るうちに本土と変わらぬ景観となり下がるであろう。われらの家庭にも、いずれはこのようなチラシが舞い込んでくる。

超高層48階建て国後レジデンス、ただいま入居受付中

・・・先日できた沖縄のテーマパークのようなものがこれら住宅群の近隣に展開して、さらには歯舞カジノに色丹ドームだ。もはや歯止めがきかなくなり、もとをただせばアイヌ民族の土地だったことなど完全に忘れ去られて、あらたなマーケティング成功事例が完成する。日露間でその帰属を争っていた時代が懐かしくなるであろう。ああ、あの頃の北方四島って、人と自然が共存していたんだなあ、とね」

(了)

1733字

 

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