飲酒 vs. 喫煙
【愛飲家、愛煙家はどのぐらいいるのか】
酒:毎日飲む 男性26・6% 女性7・2%
タバコ:毎日吸う 男性29・1% 女性8・6%
出典:平成28年度国民生活基礎調査(厚生労働省)
飲酒男 「何だよお前、タバコ臭いな。やめたんじゃなかったのか。意志薄弱な野郎だよ、まったく」
喫煙男 「いつそんなこと言った。俺は減らすと言っただけだ。お前こそ何だ、朝から酒臭いぞ。禁酒宣言はやっぱりウソか」
飲酒男 「休肝日を作ると言っただけだ。週2日は酒抜きだからな。有言実行とはまさに俺様のためにある言葉さ」
喫煙男 「節酒か。実行してるにしても、その反動で他の日は思い切り飲むんだろう。1週間の量にすりゃ変わらないか、かえって増えてるんじゃないのか」
飲酒男 「酒は百薬の長、タバコなんぞ、百害あって一利なしだ。東京五輪に向けて、値上げが検討されてるそうじゃないか。今や世界的に禁煙モードだぞ」
喫煙男 「俺はなあ、学生の頃、酒かタバコかどっちかにしようと思ってタバコを選んだんだ。もう20年以上前だが、あの時の判断は正しかったね。ほどほどに吸ってれば体にいいんだ。頭も冴えてくるしな。それに比べて酒はどうだい、酔っぱらってクダ撒いて、翌朝は二日酔いで頭ガンガン。いいこと何もないじゃないか」
飲酒男 「失礼千万。俺はいくら酔っても紳士だよ、人に迷惑かけたことはない」
喫煙男 「翌朝まで残るほど飲んで楽しいのかねえ」
飲酒男 「健康診断の結果、悪かったらしいなあ」
喫煙男 「お前も再検査通知がきてるんだろ。人のこと言えたもんじゃないだろうが」
飲酒男 「γーGTPがちょっと高かっただけだ。お前こそ、このままだと肺癌になるとか何とか言われたんだろう」
喫煙男 「言っとくけどなあ、酒飲みの死亡率は、飲まない人の1・5倍だってよ」
飲酒男 「喫煙者だって似たようなもんだろが。新幹線を見ろ、ほとんどが禁煙車両だ。職場だってどこもそうだろ。狭い喫煙室で肩寄せあって黙々と吸って、まるで清朝末期の中国みたいだ」
喫煙男 「阿片といっしょにしないでほしいね。わが身を思えってんだ。4リットル1800円の安物の焼酎しか飲まないくせに。あれは戦後のカストリ焼酎の現代版だろ。酔えればいいのか、みみっちい奴め」
飲酒男 「じゃあお前が吸ってるのは何だよ。ネットで超安値の洋モクまとめ買いしやがって。買ったら買っただけ吸い放題じゃないか。少しは節煙しろ」
喫煙男 「言われなくてもやってるよ。お前こそ、肝硬変で手遅れになる前に何とかした方がいいんじゃないか。危機感のない能天気野郎め」
飲酒男 「その言葉、そのままお前に返してやらあ」
飲酒男 「いつもながらヤニ臭い息だなあ。いったい1日何箱吸ってんだ」
喫煙男 「5箱は超えないようにしてるさ。4リットル入りペットボトルをひと晩で空ける奴に言われたくはないね。ホントに休肝日実行してるのかよ」
飲酒男 「・・・なあ、おい、今いいこと思いついたんだ」
喫煙男 「ろくなことじゃなさそうだが、一応聞こう。何だ」
飲酒男 「賭けをやるんだよ。きょうから1か月、俺は禁酒する、お前は禁煙する。我慢できなかった方が1万円払う。どうだい」
喫煙男 「いいだろう、受けて立とうじゃないか。目に見えるようだな、お前が禁断症状で汗かいて震えてる姿が」
飲酒男 「何言ってやがる。いいか、きょうからだぞ。喫煙室は立ち入り禁止だからな」
喫煙男 「飲み屋に寄らないでまっすぐ帰れよ」
飲酒男 「おい、正直に言え。吸っただろ」
喫煙男 「お前も昨夜飲んだな。バレてるぞ。1週間も辛抱できないのかねえ。呆れた奴だ」
飲酒男 「お互いさまさ。・・・なあ、おい、ひとつ考えてみたんだが」
喫煙男 「今度は何だ」
飲酒男 「日本人男性の平均寿命は80歳だそうだ。てことは、俺たちもう人生の後半戦に入ってるわけだ。俺は酒好き、お前はタバコ命。好きな事を好きなだけ味わって楽しんで、それで死ねるならいいんじゃないのか」
喫煙男 「たまにはいいこと言うじゃないか。俺も常日頃そう思ってるよ」
飲酒男 「だろ。そこでだ、賭けはやめにして、こういうのはどうだ。生き残った方が、先に死んだ方の女房に10万円払う」
喫煙男 「葬式代の足しにしろってか。いいだろう。まあ、俺が見た限りじゃ、こっちが10万払うことになりそうだがな」
飲酒男 「いちいち言うのも面倒だが、いつもながら、いや、いつも以上にヤニ臭いぞ」
喫煙男 「お前の二日酔いも強烈だがな」
飲酒男 「それはそうとだな、お前、俺が先に死んだらホントに10万円払えるのか。小遣いのほとんどがヤニと昼メシで消えるんだろ」
喫煙男 「飲み代のために働いてる奴に言われたくないね。お前こそ、貯金なんかないだろうが」
飲酒男 「・・・なあ、おい、ひとつ考えてみたんだが」
喫煙男 「何だ。実行可能なこと言えよ」
飲酒男 「駅前の銀行で口座開設してさ、積み立てするってえのはどうだい。今ざっと計算してみたんだが、月1000円だと、8年ちょっとで10万だ」
喫煙男 「そんなに辛抱してられないなあ」
飲酒男 「じゃ、月2000円だ。これなら4年後だ」
喫煙男 「できない話じゃないが、金貯めてどうすんだよ」
飲酒男 「お互い10万円貯まったのを確認して、賭け再開だ」
喫煙男 「それまでくたばるなよ」
飲酒男 「さあ、10万貯まったぞ。賭け再開といくか」
喫煙男 「しかし俺たち元気だよなあ。吸いたいだけ吸って、飲みたいだけ飲んでるのに」
飲酒男 「確かに。・・・なあ、おい、俺、常々考えてるんだけどさ、酒かタバコで体壊す奴ってのは、ストレスとか悩みとか不安とか、とにかく何らかのネガティブな理由を抱えてて、その状態にヤニやらアルコールやらを刷り込んでいくからおかしくなっていくんじゃないかって気がするんだ。忘れてしまいたい事、って、唄の文句にあるけど、俺たちってそういうタイプとは違うだろう。ただ根っから好きなだけで」
喫煙男 「女房とタバコのどっちを取るか迫られたら、即答はできないなあ」
飲酒男 「俺もだ。・・・なあ、おい、せっかく10万貯めたんだからさ、自分たちのために使わねえか。温泉宿で山海の珍味食いまくるとかさ」
喫煙男 「いいねえ。そうだよ、自分の金なんだからなあ。いい湯に浸かってサッパリしようか」
飲酒男 「ああ、やっぱり温泉はいいねえ。酒はうまいし」
喫煙男 「平日にして正解だなあ。豪華露天風呂をほとんど独占だったもんな」
飲酒男 「・・・なあ、おい、こんな贅沢はさ、滅多にはできないけど、これが最初で最後ってのも寂しくねえか」
喫煙男 「湯上りの一服は最高だもんな。また来たいねえ」
飲酒男 「だろ。また積み立てしよう。今度は月3000円だ。これなら3年もしないうちに再び温泉三昧だよ」
喫煙男 「いいねえ。ま、3年以内に死んじまうかもしれないがな。お互い、先のことはわからないぞ」
飲酒男 「死ねば女房に10万。生きてりゃ俺たちがその金で温泉に行く。どうだ」
喫煙男 「葬式代じゃなくて、それで女房も温泉に行くかもな」
飲酒男 「亭主元気で留守がいい、死ねばアタシは温泉三昧、ってか。女房孝行だねえ」
喫煙男 「終わりよければすべてよしってところだな」
飲酒男 「・・・なあ、おい、人生ってのはさ、案外こういうものじゃないのか」
喫煙男 「俺もそんな気がするよ」
(了)
本記事により、ひとつの疑問が抽出されます。題して、
合わせてお読みください。