ボランティアと仕事、大切なのはどっち

【二足の草鞋、成功の秘訣】

・まず本業できちんと結果を出す。

・目的意識を持ってやる。憂さ晴らしや軽い気持ちでは長続きしない。

・タイムマネジメントをしっかりして、無理をしない。

・就業規則に抵触していないか予め確認しておく。

・職場での言い訳に使わない。

出典:日経電子版

 

 

社員A 「お、昼休みに読書とは珍しいね。何読んでるんだい・・・へえ、君、将棋やるんだったっけ。知らなかったな」

社員B 「全然興味なかったんだけどね、覚えなきゃいけないんだ。実はウチの近所の特別養護老人ホームでボランティアを募集していてね、電話してみたら、いろんな役割があって、将棋のお相手をしていただくだけでもいいんですよ、って言われたんでね。それぐらいなら簡単そうだし、僕にもできるかなって思ったんだ」

社員A 「まあ、ご老人たちは退屈してるからね。喜んでもらえるかもしれないね。週に何回とか決まってるの」

社員B 「無理なく来れる日でいいってことだから、毎週日曜日の午後に決めたんだ。いつも寝転んでDVD観てるだけだからね。ちょっとは人様の役にたたないと」

社員A 「そうだね、人のために無償で奉仕するのも大切だよね」

 

 

社員B 「お先に。お疲れさま」

社員A 「ここのところ、ずいぶん帰りが早いね。いいヒトでもみつけたのかい」

社員B 「駅前のカルチャーセンターで、将棋講座を受けに行くんだ」

社員A 「ははあ、はまったね。老人ホームで目覚めたってわけだ」

社員B 「違うんだよ。おじいちゃんたちの中に、べらぼうに強い人がいてね。車椅子使ってて、言葉もうまく話せないのに、将棋さす時だけは別人みたいに凄いんだ。ワシのひ孫より弱いねえ、なんて言われたものだから悔しくてさ。強くなって再挑戦だ」

社員A 「負けてあげるのもボランティア精神のうちじゃないのかなあ」

社員B 「まだそのレベルに届いてないんだ。ほとんど門前払いでね。負けてあげるだなんて、とてもとても」

社員A 「まあ、ほどほどにね」

 

 

社員A 「会議中の居眠りはまずかったね。疲れてたのかい」

社員B 「土日は忙しくてさ、月曜の会議は辛いな」

社員A 「ボランティアは日曜の午後だけだろ。他に何かやってるのかい」

社員B 「将棋終わって帰ろうとした時、キッチンに洗い物がたまってるのをみて、僕が洗いましょうかって言ったらさ、じゃあお願いしますってあっさり頼まれてしまって。その後、フロア長が来て、リネン交換のボランティアさんが辞めてしまったので、よければいかがですか将棋だけじゃ物足りないでしょう、ワハハ、ってな具合で、役割が増えたんだ」

社員A 「シーツとか枕カバーとか、だよね」

社員B 「僕もそう思ってたんだけど、それだけじゃないんだよ。お漏らし防止で防水シートは必ずしてるし、掛布団カバーもあるし、人によっては抱き枕を使っていてね、これはカバーを外した掛布団を丸めて上と下から枕カバーをかぶせたものなんだけど、この枕カバーも交換しなきゃいけない。終わったら必ず元通りにしなきゃいけないんだけど、掛布団のたたみ方が人によって違うんだ。ハンカチみたいな四つ折りだったり、立て向きの蛇腹、横向きの蛇腹、くるくる丸める、それから、枕元に家族の写真とかティッシュペーパーとか目覚まし時計とかいろいろ置いてあったら、きっちり元通りにしとかないと後で文句言われるんだ」

社員A 「ずいぶん大変なこと引き受けてしまったね」

社員B 「まだあるんだ。ベッドをどけて、部屋の掃除もしなきゃならない。隅の方なんかホコリの塊がこびりついてて、掃除機じゃ吸えないんだな、これが。雑巾でゴシゴシこすってようやくとれるんだけど、こんな感じで何だかんだやってると、ひと部屋30分近くかかる。土日で40人分やって、その上将棋の相手もしなきゃならないし、皿洗いの手伝いもある。日曜の夜はグッタリさ」

社員A 「アルバイト料もらえるぐらいだね、その仕事量は」

社員B 「そう思ったんだけど、ウチの会社、副業禁止だろ。でもさ、掃除した後、キレイにしてくださってありがとうなんてご老人たちに言われると何だか嬉しくてね。喜んでもらえるならいいか、って」

社員A 「会議中に居眠りしない程度にとどめておかなきゃ。それ部長に知られたら何言われるかわからないよ」

 

 

社員A 「課長から聞いたんだけど、商談中に眠ってたんだってね」

社員B 「ちょっとウトウトしただけなんだけど。課長にも部長にも怒鳴られたよ」

社員A 「まあ、当然だろうね。まさか、平日も老人ホームに行ってるんじゃないだろうね」

社員B 「それはさすがにないけど。でも、ここしばらく、認知症のことを毎晩調べていてね。いや、これがまた、実に深い世界なんだな。勉強したいことが次々出てきて、気付いたら夜が白々と明けようとするところだったりしてさ。ここんとこ、睡眠不足なんだ」

社員A 「君は営業マンなんだからね、商品知識とか市場の動向とか、勉強するならこっちだろう。本末転倒になってるよ」

 

 

社員A 「聞いたよ。今月いっぱいで辞めるんだって」

社員B 「ああ、そうなんだ。君に言わなきゃと思ってたんだが。営業成績も落ちて、上から睨まれてたからね。そろそろ潮時かなって」

社員A 「独身とはいえ、もう30代後半なんだから、仕事探すの大変かも」

社員B 「それは大丈夫。もう決まってるから」

社員A 「また営業職かい」

社員B 「実はね、週末は学校に通って、<介護職員初任者研修>の資格を取ったんだ。老人介護の入り口資格だよ」

社員A 「ボランティアが高じて、とうとう資格までとったのか。・・・てことは、就職先は」

社員B 「そう、近所の特別養護老人ホームさ。年収は下がるけど、ご老人たちが喜んでくれるからね。収入は低いが満足度がダントツだ。奉仕の精神で働いてお金がもらえるんだから、あんなに尊い仕事は他にないよ」

社員A 「善意が仕事になるのか。本末転倒も、徹底的にやれば面白いことになるものだね」

社員B 「やってみればどうなるかわからないけどね。でも、何をやろうが主役は僕だ。自前の舞台なんだから」

社員A 「その舞台に観客はいるのかい」

社員B 「まずは自分が観るのさ。主客一致ってところだね」

社員A 「女は鏡を手放さないというが、君も自分の鏡を持っていたんだね」

社員B 「僕の鏡には目盛りがついてる。人との距離も、人の心も、これで測れるんだ。君も自分の鏡を正しく使わないとね」

社員A 「30代の言葉にしては出来過ぎだね」

社員B 「将棋名人のご老人から学んだのさ」

社員A 「何を」

社員B 「攻めと守りのさじ加減」

(了)

 

本記事により、ひとつの疑問が抽出されます。題して、

ボランティアとは、要するにタダ働きなのか

合わせてお読みください。

 

 

 

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