年中無休が当たり前だなんて、異常だ。
年中無休の店が増えましたね。かつては毎週休んでいたデパートも、いつの間にか定休日を廃止してしまいました。一年中いつでもどこでも何でも買える世の中に。これでいいのでしょうか。何かが、どこかがおかしい気がするのです・・・
年中無休店の氾濫・隆盛。世に言う「お客様第一主義」の結果か
問う人 「街中どこへ行っても年中無休の店だらけです。便利さを追求し過ぎて、かえって暮らしを破壊したような気がするのですが」
知る人 「商売人というのは、二言目には『お客様』だ。いわゆる消費者ニーズを追い求めた結果、店は定休日を犠牲にするようになったのだな」
問う人 「それが本当の消費者ニーズなのでしょうか。後からつけた理由のようにも思えますがね」
知る人 「今まで閉めていた日に営業するのだから、客が入って当然だな。一回これをやると、売り上げ増という実績が残る。少ない営業日ではカバーできん。また営業する。やがて休みなしが定着してしまう。ライバル店も黙ってはいない。地域全体そうなっていき、休みたくても休めなくなる。客は無休が当然と思うようになり、休むのは怠慢のような印象を持たれてしまう」
問う人 「その一方で、強引な月曜祝日が増産され、三連休が珍しくなくなりました。サラリーマンの休みが増えることで、小売商人はますます休めなくなっていきますよね」
知る人 「三連休乱造の真の理由は、労働者を休ませることではなく、消費喚起だからな。仕事を休んで金を使う者、それに商品・サービスを供給する者。言ってみれば、金を使う役と稼ぐ役の二役に世の中を分けたようなものだ。双方ともにやがて疲弊し、後に残るのは破壊された日常だけだ。誰一人幸せになれん」
問う人 「商人はすぐお客様お客様と言いますが、結局、平穏な暮らしを壊し、騒々しい街を増やしただけに終わったのではないでしょうか」
知る人 「まだまだ終わってはいない。市場経済の最も悪いところ、それは、自分の首を絞めるまで膨張をやめないことだ。日本の生活環境の破壊は続くぞ」
年中無休店の乱立による弊害とは
問う人 「いつからこんなことになったのでしょう」
知る人 「パワーセンター、カテゴリーキラー、コンビニエンスストア等々、アメリカ発祥の商業形態が続々と入ってきてからだろうな。今に始まったことではないが、わが国の悪いところは、アメリカで流行したものはほぼ盲目的に輸入してしまうことだ。それによって日本人の暮らしがどうなるか。ただ便利になるだけではなく、民族固有の生活習慣や伝統文化は守られるのか、青少年の教育の妨げにならないか、など、便利さを買って民族の誇りを売り渡すようなことにならないか、先を見据えて冷静に判断できる指導者がいない。切り込み隊長はいても、防波堤役がいないわけだ」
問う人 「デパートなんて、かつては毎週休んでましたよねえ。三越は月曜、高島屋は水曜でしたっけ。それでもうまく回ってたはずです」
知る人 「三越本店なんて、正月三が日全部休んでたもんなあ。毎年四日が初売りだった。思い出すのは、二十年以上前だがね、福島県いわき市のことだ。中内功氏率いるダイエーが、正月休みを返上しておおいに客を集めた。これに対して、地元の百貨店の大黒屋がこんな広告を打ったんだ。
当店は従業員を大切にして、年始はお休みをいただきます。
・・・このあとしばらくして、大黒屋は倒産してしまった。だが、隆盛を誇ったダイエーは赤字経営で中内氏が辞任、いまやかつてのライバル・イオンに飲み込まれてしまった。限られたパイの奪い合いをしても、少し長い目でみれば、得るところは何もないってことだな」
問う人 「歳時記のような素朴な暮らしはもはや望むべくもないのでしょうが、せめてもう少し日本人らしい暮らし方を取り戻せないものでしょうか」
知る人 「いつも店が開いてるから、まとめ買いしなくて済む。これは便利になったように思うだろうが、さにあらずだ。先を見越して生活用品を準備するのも、庶民の知恵だったはずなのだ。寒い冬を控えて、防寒具をどれだけ蓄えておくか。漬物や干物などの保存食が発達したのも、冬場の栄養不良対策だったのだからな。困難があらたな知恵を生み、そのたびに人は賢くなるのさ。正月にショッピングセンターに来る家族連れを見てみるがいい。何も考えていない、その日暮らしの呆けた奴らばかりだ」
問う人 「設備管理の点からも、無休はよくないと思いますね」
知る人 「その通り。とくにエレベーターやエスカレーターなどは、適宜休ませることが大切だよ。機械は油さえさせばいつまでも動くってものじゃない。客の安全を考えるならなおさら、設備点検にじゅうぶんな時間をとるべきだね」
年中無休を廃止して定休日を復活させるには
問う人 「週一日休むという、言ってみれば『ほどほど商売』を復活させるには、どうすればいいでしょうか」
知る人 「業界横並びで一斉に変えるのはまず不可能だ。売り上げが落ちるようなことを率先してやる商人などおるまい。きっちり定休日を消化することで逆に業績を伸ばし、従業員もイキイキ働く。こんな店が増えれば世の中は変わるだろうね。人間も設備も休ませて、キンキンに張り詰めた余裕のない『ギリギリ社会』を変革していかねばならん。これから先、私たちのやるべきことは多いぞ」
(了)