愛は邪(よこしま)を嫌う

【男女間の友情についてです。来年で50になる既婚男性ですが、高校時代の同級生の女性に対して、最近、思うところが多いのですね。彼女にも子供がいます。末永く付き合えれば、と当方は思っているのですが】

 

 

知る人「思うところが多い、とはずいぶん持って回った表現だが、要するに、友情以上のものを感じて自制できず困っている、ということではないのかね」

問う人「いえ、そうではなく、男女間の友情が成立するのかどうか、という点についてお尋ねしたいのです」

知る人「うまくいくこともあるし、一線を超える場合もあろうね。男女関係に公式など成り立たぬ。君たち二人のことは、君たち自身が一番よくわかっているだろう」

問う人「それがわからないんです。彼女とは高校三年間ずっと同じクラスでして、とても仲良しだったんです。でも、卒業して、それぞれの道を歩んで、伴侶と巡り合ったんですが、むこうは二人生んだあとに別れてしまいました。それが32歳のときで、以来、17年間シングルマザーとして奮闘してきた人です。折に触れ相談に乗ったりいろいろしていて、同窓会で会ったりもしてたんですが、最近、妙に冷たいと言うか、つれないと言うか、とにかく、メール送ってもそっけない返事しか返って来なくて、明らかに以前とは違うんです。どうしたもんだろう、って」

知る人「元彼女、ではなく、一度もそのような関係はなかったということかな」

問う人「ないです。ずっと友達でしたし、これからもそのつもりでした」

知る人「彼女は遠くにいるのかね」

問う人「そうなんです。新幹線で3時間ばかり行かないと会えないんです」

知る人「最近の連絡は、メールかな」

問う人「そうです。3か月ほど前でした」

知る人「それがずいぶん素っ気ない文面だったと」

問う人「ええ。素っ気ないというか、こちらの問いかけに対して回答なし、という終わり方でした。以後、音沙汰なしでして」

知る人「どんなやりとりをしたのかな」

問う人「彼女の長女が社会人になりまして、家を出たんです。配属先が遠くてとても通えないので、一人暮らしになったんですけど、僕の家からだと、1時間もかからない場所なんですね。それで、俺が時々面倒見てあげてもいいぞ、ってメールしたら、返事が来なくなりました。何が気に障ったのかわからないんですよね」

知る人「そのときのメールには、他に何か別のことを書かなかったかな。あとになって、ああ、あれはよけいだったな、とか、あんなこと書かなきゃよかった、とか思ったことがあるのではないかね」

問う人「ないですねえ。あのときはですね、君の娘だと思うと、何だか他人の子っていう気がしなくてねえ、なんて冗談は書きましたけど」

知る人「それだ」

問う人「え、こんなことが気に障ったと。それはないでしょう」

知る人「言い古された諺を持ち出せば、 親しき中にも礼儀あり だな。いくら親友であっても、相手は既婚女性なのだよ。赤の他人である君からそのように言われれば、気分を害するのも当然ではないのかな」

問う人「・・・ううん、そんなに失礼な言い方だったんでしょうか」

知る人「まあ、いろんな意味でね。君の心中の優先順位とは違うかもしれぬが、いくつか挙げていこう。まず、向うがシングルだということで、君は与し易しと軽く考えてはいないかね。ダンナのいない子連れ女性というのは、男どもの下品な妄想の対象に選ばれやすい。君の中にも、 あわよくば という邪念がなかったと言い切れるかね」

問う人「僕が彼女を狙っていると」

知る人「そうだ。俺の二番目の女房だ、ぐらいの気持ちがあったのではないのかね。男女間の友情と言えば聞こえはいいが、君の場合はだな、今の妻とうまくいかなくなった時の代替妻の如き位置に、彼女を待機させているように見えるのだよ。男女間の友情という美しい言葉で飾ってはいるが、いつでもその飾りをはぎ取ることができるようにして、そばに置いておきたいのだろう。そのような よこしまなこころ> を、賢明な彼女は感じ取ったのだ。百歩譲って、彼女にも恋愛に近い感情があるとしよう。だがそれは、所帯持ち同士の礼儀があってこそ、静かに育まれていくものなのだな」

問う人「そうですね。確かに、彼女を素敵だと思う気持ちは常にありました」

知る人「20年近い付き合いということは、向こうも内心はそうかもしれぬ。だが、シングルの女性から見れば、他人の家庭はとても温かくて幸せそうに感じられるものだ。君の幸せな家庭を壊すなどとてもできない、と彼女は思っている。本気で君を大切に思うなら、君の幸せを願うはずなのだよ。それなのに、君から、まるでその娘は俺の子だ、みたいな不躾なメールが来たものだから、さぞかしがっかりしたことだろう。やり直しだな。しばらく冷却期間を置いて、連絡を取らない方がよい。そうして、ごく簡単な近況報告を送るのだ。私情を挟んではならぬ。それこそ、素っ気ない文面がよいのだ。それに対して、どんな回答がくるか。期待せず待つことだな」

問う人「期待せず、ですか」

知る人「そう。君は彼女の真摯なる生活態度に水を差すようなことをしたのだからな。しばらくはその報いを受けなさい。愛にはさまざまあるが、 邪=よこしま というのは、最も愛に馴染まぬものなのだ。自分中心に考えず、彼女の幸せを願いなさい。そうし続けていれば、君たちの関係は、お互いにとって最も良い形で落ち着くであろう。薄汚れた期待感を完全に払拭できるまで、彼女と連絡を取り合ってはならぬ」

(了)

2245字。

 

 

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