居酒屋にガキを連れてくるな
【行きつけの飲み屋が最近になって方針を変えまして、子連れの若い母親客が増えたんです。売り上げを伸ばしたいのはわかりますが、小さな子供がそばにいると、何だか落ち着かなくて。この店はもうやめようと思います】
知る人「そういう母親というのは、だいたいが専業主婦に毛が生えた程度の連中だな。ダンナの扶養範囲内で稼ぎに出ているか、或いは育児に専念しているか。いずれにせよ、暇を持て余した若奥様であるのは間違いなかろうね」
問う人「親子だけというのはいませんで、同じく子連れのママといっしょに飲んでますね。子供はすぐ退屈しますから、じっと座っていないし、座っていても、まず黙っていない。うるさいし目障りだし。いくら売り上げのためとはいえ、じっくり腰を据えて飲みたいリピート客を逃してまで開拓する顧客層ではないと思うのですが」
知る人「マクドナルドやケンタッキーのように、親・子・孫の三世代に渡ってリピーターを確保している商売もあるが、そこらの居酒屋に長期のビジョンなどあるまい。日銭稼ぎの短命商売だからな。他店との差別化のつもりでどこかの店が始めたのであろうが、いまや子連れの居酒屋など珍しくもない。となると次は何だと思うね」
問う人「人間でネタが尽きれば、次は動物。ペット同伴OKですかね」
知る人「笑えぬ話だな。まさか、視覚障害者が盲導犬を連れて来るなどという光景は見られまいが、愛犬・愛猫その他愛玩動物を連れて一杯、なんていうのは、そろそろ現実味を帯びてきたね」
問う人「酒飲みには受難の季節到来、というわけですね」
知る人「まあ、その程度で済めばよいのだが、ことはそう単純ではない。問題点を洗い出していこう」
大人の領域に子供を連れ込むのはナゼいけないのか
知る人「その昔、ヨーロッパの家庭では、子供を同じ食卓につかせなかったらしい。子供だけ、まるで犬みたいに、テーブルの下で器を手に食事している絵を見たことがあるんだがね。だからどうだ、という話ではないのだが、子供を大人と同じ目の高さで扱うことにはいくつかの問題点がある。何だかわかるかな」
問う人「そうする前に、まずは千尋の谷に突き落とせと」
知る人「それは大人の判断だろうな。もっと楽に考えてみなさい。いいかね、子供というのは、時間をかけて少しずつ大人になる。居酒屋に出入りできることが、大人であることの指標ではない。だが、それもやはり、少しずつ酒の味をおぼえ、やがて居酒屋デビューするものであろう。ものには順序があるのだ。そこへ幼い頃から出入りしていると、大人と子供の境目に厳然とある けじめ がわからなくなるであろう。成人でなければ入れない空間があるということを、彼らは幼いうちに学ばねばならぬというのにだな、浅はかな母親が我が子を同伴するがために、けじめのわからぬ子が育つ。自我とは本来、反発と受容を繰り返しつつ身に付いていくものでなければならぬ。ところが、幼いうちから飲み屋に出入りするクセがつくと、自分を守る防具としての自我が身につかぬ。なぜなら、いくらでもワガママを通せるだろう、母親が守ってくれるし、店員は頭をナデナデしてくれるのだからな。要するにだな、世の中を舐めているガキが育つのだ。こういう連中が成人するとどうなるか。腹が立てば怒鳴り、腹が減れば食らう。常に自分最優先の、昨今掃いて捨てるほど存在する 消費者としての存在価値しかない日本人 の出来上がりというわけだな」
問う人「なるほど。つまり、こまっしゃくれたガキが、そのまま大人になってしまうということですね」
知る人「その通りだ。さらに、子供が騒いだら、周囲の客はどう反応するかね。親を責めるであろう。大人であれば、本人の責任だがね。自ら責任を取れぬ年齢で、責任の伴う場所に出入りするのは社会に迷惑をかけることにしかならぬ」
問う人「でも、親はわかっていませんよね」
知る人「まったくわかっておらぬ。次の問題はここだ」
身勝手ママの道具に使われる子供たち
知る人「こんどは母親側から考えてみよう。育児は責任ある重要な仕事だが、彼女たちはおそらくテキトーにこなしているであろう。育児ストレスでまいってしまうほど真剣に取り組む誠実なママはごくわずかだ。居酒屋に子供同伴で行く母親というのは、ただ退屈しのぎがしたいだけなのだな。夫はしょっちゅう飲んでるんだからアタシだって、とばかりに、ママ友を誘って繰り出す。何事にも息抜きは必要だ。だが、我が子が傍らで騒いでいても平気な程度の息抜きだからな、たいしてストレスなど溜まってはおらぬ。真剣に息抜きしたければ、まず夫と話し合い、子供の面倒を見てもらって、思い切り羽を伸ばしに行くであろうな。小出しにしていること自体、大きなストレスを抱えておらぬ証拠である」
問う人「要するに遊びたいんですよね、そういうママたちって」
知る人「そうだ。ああいう輩は、なんだかんだと理由を作っては遊びたがる。彼女らは、自分たちを社会人とは思っておらぬ。何でも思い付きで行動して、そこに確固たる秩序はない。彼女ら自身が未完成の大人であり、飲み屋に同伴した我が子の将来の姿なのだ」
問う人「母親を再教育しなければなりませんね」
知る人「そうなのだが、最も深刻な病巣をここで明らかにしておかねばならぬ。母親の教育や躾けがいいかげんだとどうなるか」
国家の屋台骨が揺らぐ
知る人「子宝という言葉が示している通り、子供は世の宝だ。子供たちが大人になって、社会を支え、改革していく。よりよい世界は子供たちの手にかかっているのだな。だが、母親と居酒屋に出入りして大人の空間を侵害するような経験を身につけてしまうと、社会の牽引車たる誠実な魂が育たぬ。子は国の礎なのだ。正しく世代交代していかねば、国家は正常に機能せぬ。愚かな母親が、自らに負けぬぐらい愚かな子を育てることが、そしてそのようなガキが数百万、数千万と増殖することが、わが国にとってどれほど恐ろしいことか。誰も真剣に考えておらぬであろうな。今、巷でわがまま放題のふるまいをしているガキどもが、いずれ国家の中枢に座る。それはいったいどんな国なのだ。数千年の歴史を有するやまとのくにか。それとも、何でも金で解決できると信じる消費者的日本人の群れるくにか。国家の礎を破壊し、問題を先へ先へと送る。こんな状態では、他国の侵略を受けても無抵抗であろうな。降参のための白旗をコンビニへ買いに行くという、マンガ的光景がいずれ見られることであろう。結論を述べる。ガキを居酒屋に出入りさせるな。店は子供の出入りを禁じよ。銭のためなら民族の未来を売り渡して平気なのか。我が国の歴史を、私たちの代で終わらせてはならぬ。誠実なる日本人よ、大和の民よ、奮起せよ」
(了)
2741字。