新人への高額年俸を再び問う
【新入社員に1000万円支払おうという企業がまた現れましたね。このような流れが加速したら、本当に日本は崩壊するのではないか、と気になってしかたがありません。なぜ高額で新人を釣り上げようとするのか考えていきたいです】
知る人「新人への高額年俸、ということでは、当サイトでも一度論じたことがある。
・・・誰も読んでいないサイトだから反響は皆無だがね、前回と重複せぬよう、再び考えてみたいね」
問う人「企業によって事情はさまざまでしょうけど、結局のところ、いい人材確保のための手段ですよね」
知る人「新卒採用で言われた ”青田買い” の究極版と言えるかもしれないね。企業は競争に勝つことしか考えておらぬ。自分たちのやることが広がっていけば、やがて大学の進路指導に影響が及び、さらに高校生の就職観などにも響いてゆく。こうなれば幼児教育にまで何らかの影響が及んでゆくだろうな。一企業が自己の都合だけで始めた試みが、ジワジワと拡大して、いつか日本全体を覆うことになる。それがどんな悪影響を及ぼし、害毒をまき散らそうと、当の企業たちはもちろん知らぬ顔だ。一国の根幹にかかわる深刻な事態に陥っても、彼らは決して自らの罪を認めないだろうな」
問う人「そうやって、少しずつ日本はダメになっていくんですね。こんな場合こそ、文部科学省が頑張らなきゃって僕は思うんですが、どうでしょうね」
知る人「役人もサラリーマンだからな。敵を作りたくないだろうし、火中の栗を拾うのもゴメンなのだろうな。昨今の顕著な特徴として、人間の育成であろうが、人命にかかわる重大事であろうが、すべてが市場原理と結びついて動く。万事にスポンサーがつくわけだな。市場に任せておけばうまくいく、という、古典派経済学的な認識がいまだに幅を利かせている。何事にも経済効果を求める我が国としてはだな、 いいことをして儲かるならいいんじゃないの という軽いノリが必要だし、そんな雰囲気の国がもっとも居心地よいのであろう。そんななか、1000万もの高額年俸を与えられた新世代が育成されていく。彼らが企業の中枢に居座るようになれば、従来型の雇用慣行も人材育成も、根こそぎ破壊するだろう。国家百年の計など誰も抱いておらぬ。亡国度はますます進んで、国籍不明の消費者的人間が増殖して、国自体が世界のカジノの如く、金儲けの舞台として利用されるだけの草刈り場に堕すであろうな」
問う人「そうなる前に、手を打てないでしょうか」
知る人「食い止めるのは無理だな。今回の主題に限って言えば、まともな雇用慣行に従い、正しく人材を育成している企業が、高額年俸新人を有する企業との競争に打ち勝つしかあるまい。じっくり時間をかけて育てられた人材が闘いに勝ってこそ、高額年俸の試みが誤りであると証明することになるからね。ものには順序がある。それを無視して結果だけを得ようとする風潮を放置していては、日本人が劣化していくだけだ。結果主義が進むとどうなるかわかるかね。努力を軽視する風潮が、風潮ではなく考え方の基本として、私たち日本人の意識の底に定着する。すべての世代間で断絶が起き、日本人はバラバラになるだろう。そしてこのような悪しき空気が海外へと拡散する。すぐ日本の影響を受ける韓国や中国をはじめ、アジア諸国にまず広がり、やがて欧米から全世界へ伝播していくであろうな。人類社会を蝕む害毒を、わが国が先陣を切って垂れ流すのだよ。安易な思考しかできぬ人間は、困難に立ち向かうことができぬ。国家間の交渉など、容易に決裂するだろう。辛抱できぬ者同士で話し合っても、ろくな結論は出ぬ。第二次世界大戦終結100周年となる2045年までに、第三次世界大戦が起こる可能性を否定できぬ世界が、ジワジワとできつつあるのだ。人類の歴史を私たちの代で終わらせたくなければ、一から順に積み上げることを厭わぬ人材を育てることが急務なのだ。企業よ、高額年俸で若者を釣ろうなどと愚かなことはやめて、仕事の3年、5年、10年ビジョンを若者に示せ。銭ではなく、仕事の中身で人を引き寄せるのが正しいのだ。報酬は仕事の後からついてくる。鼻先のニンジンに早々とかぶりついた馬が走ると思うのか。銭を蒔くな、仕事を蒔け」
(了)
1752字。