変な題名の本が多過ぎる
【読書好きな男です。最近、変な題名の本が多いことに辟易してます。売らんが為の作戦なのでしょうが、モラルといいますか、良識はないのでしょうか、題をつける人たちには。売れたら何でもいいのでしょうか、納得できません】
知る人「君の言う通りだ。売れれば何でもいいのだよ、彼らは」
問う人「本の題って、出版社がつけるんですよね」
知る人「内容にもよるし、筆者の知名度によっても違うだろうな。人気作家や超有名ライターであれば、その人自身が考える場合が多いだろうし、知名度が高くない人、有名だが書くことについてはドシロウト、といった人たちならば、編集者が案を出して進めるのだろうね」
問う人「どっちが多いのでしょうか」
知る人「断言はできぬが、だいたい、耳目をひくことだけを目的としたようないかがわしい題がついているのは、編集者主導だろうな。立花隆、佐野眞一クラスの書き手がいいかげんな題をつけたのは見たことがない。小説にしても、肝臓を食いたい などと異常としか思えぬ題をつけるのは、無名作家か、それに近い三流の物語屋のものであろう。彼らの書籍というのは、純然たる商品なのだな。文章とは、私たち日本人にとってかけがえのない文化である<日本語>を駆使して書かれるものだ。そこには、多少なりとも、日本人としての誇りがあって当然なのだが、彼らにはもちろんそんなものはない。先祖代々受け継いできた美しい母語を汚し、茶化し、おもちゃにしてしまう。商品であることに徹し、売ることだけを念頭に置けば、くだらないアイデアがいくらでも湧いてくるのだろうな」
問う人「うちの近所に餃子を売りにした居酒屋ができたんですけど、ここの看板にこう書かれてあってね、笑ってしまいましたよ。 餃子とビールは文化です っていうんですけど、どうです」
知る人「日本語を覚えたての外人が見れば、ああなるほどと思うのかもしれぬが、そうだな、文化という言葉も、ずいぶん軽く使われるようになったものだ。<神>もそうだろう。神ってる だとか 神泡 だとか、本来の意味からかけ離れたところで乱用されている。本の題の乱れ具合は、こういった風潮の現れなのだろうね」
問う人「売れれば何でもいい、勝てば官軍、ってことでしょうか」
知る人「売り上げを伸ばせば勝ち、と思っている連中にとって、売れたというのは勝負に勝ったのと同じだからな。自分たちには生活がかかっているだの、日本には表現の自由があるだのと、都合のよいことを並べ立てて行動を正当化する。スポーツを見よ。勝つために反則ギリギリのプレーをした個人やチームが優勝しても、ブーイングしか聞こえてこぬはずだ。商いや仕事も同じなのだよ。ルールのあるところにしか、勝者は存在せぬ。生き物の生存競争と商売を同列に論じるから、このような醜いシェア争いが後を絶たぬのだ。自然界の生き物は、本当に命を懸けて戦い、必死で生き残ろうとする。だが私たちはどうだ、社会には厳然たる規則が多くあり、安全に、安心して暮らせるようさまざまな策が施されている。しかし今、それを破って自分だけいい思いをしよう、自分だけ目立とうのし上がろう、という輩が掃いて捨てるほどいる。本の題は、そのような世相の見事なる反映だ。いつだったか、関西のクズ芸人が 読め という題の本を出した。どれくらい売れたのか知らぬが、あれなどまさに現代ならではのケッサクタイトルだな。書いた方も出した方も、読者と世間を舐めているとしか思えぬ。売れれば何でもいいという姿勢の典型であり、醜態としか言いようがない」
問う人「最近の流行りだと思うんですけど、よく見かけるのが、 ○○のための3つの法則 とか なぜ○○は人々に支持されるのか 或いは ○○したければ△△はやめろ などといったタイトルですね」
知る人「ブックオフに行けば、ワゴンの中でたたき売りの対象になっているね。いずれも、気持ちの弱い、移り気な読者の心を掴む手段だろうな。当サイトのあっちこっちで取り上げているが、現代とは、楽して結果だけを得たがる人間のひしめき合う時代だ。これ一冊読めば何とかなりますよ、と訴えてくるかのような題名を見ると、彼らの多くは手を出さずにはおれぬであろうな。書いているのがそこそこ有名な人物であればなおのこと、そうかなるほど、と内容を信じてしまう。或いは信じ込もうと自分で自分を誘導する。昨今は何でもアプリ化するのが流行りだがね、人気サービスだと数千万人という膨大な数の人々がダウンロードする。異常事態だな。珍現象だなどと冗談めいた言い方では済まされぬ時勢になってきたと言わねばならぬ。楽してあぶく銭を得たがる輩が、いったい国民の何割を占めるのか。考えるとゾッとするがね」
問う人「ああいう本が出版されない世の中にしたいですね」
知る人「ますます出てくるだろうな、もっと強烈な、開いた口が塞がらないようなものが。ゴミ箱に捨てると、他のゴミから苦情を言われそうなくらい酷い、どうしようもなく醜い ”商品” がね。日本人の劣化はさらに進むだろうから、それに伴ってクズ本も増加する。悪貨が良貨を駆逐する時代がえんえんと続く」
問う人「何百年も、でしょうか」
知る人「それはなかろう。なぜなら、そうなるまでに良いものが完全に死に絶え、クズやニセモノだけの世の中になっているだろうからね」
問う人「そうなる前に死にたいです・・・」
知る人「劣化した母国を見たくないのは私も同じだよ。だが、私たちはどこにいようが日本人なのだ。例え三途の川を渡り切ってしまおうともね。結論を述べる。自分の暮らしの中から、 ”ああ、こうすれば楽だなあ” と思える要素を一つずつ除去せよ。次に、そうして空いた場所に難易度の高い、しかし達成すれば喜びのデカイ何かを配置するのだ。そうすることで、少しずつ、そして着実に、苦労を厭わぬ真人間に変身できるだろう。楽して稼いだあぶく銭はすぐ消える。まっとうに生きよ。楽をするな。霊長類の頂点に立った私たちは、他の生物たちの分も苦労を背負い込んでいるのだ。苦労を喜べ。汗を誇りとせよ」
(了)
2486字。