【よろずのことわり】百回記念特集・劣化する日本人(3)

【前回までの主旨:21世紀の日本は、20世紀の大量消費社会の流れを受け継いでいる。さらにインターネットが短期利益を容易に産みだせるという風潮をつくり、目先しかみない商人が幅を利かせている。これをいかに変えていくべきか】

 

 

知る人「現状を変革するキーワードとして、 ”健康” を選んだ。前回はそこまでだったな。しかしまあ、前回記事からすでに半年近く過ぎてしまった。どうまわり由紀夫氏の身辺にいろいろあったからな」

問う人「そうですね。百回記念の第2回と第3回の間が開き過ぎてしまいましたね。由紀夫氏はどうしてしまったのでしょうか」

知る人「例によって、また転職したらしい。女房子供がいるというのに、なかなか落ち着かぬ人だ。・・・まあ、そんなことはよかろう。前回の続きだ」

問う人「健康をキーワードとして、いかに現状を打開するか、ですね」

知る人「うん。私たちがのんびり構えている間に、世界は新型コロナウィルス一色に染まってしまった。東京オリンピックの延期も正式に決まったしな。”健康” 問題と言えば、これ以上健康と深く関わることもあるまいね」

問う人「でも、コロナの影響が強すぎて、世界はまさに萎縮してしまっている感があります。今こそ前向きな議論が必要ですよね」

知る人「そうなんだ。意気消沈している場合ではない。亡くなった方々のご冥福を祈りつつも、私たちはとにかく前進し続けねばならぬ。ただ、ここでは昨今の風潮たる政権批判はせぬ。安部総理の決断が遅いだの、はした金ばらまいて何になるだのと好き放題言い放っている連中がうじゃうじゃいるが、彼らの如き烏合の衆とは一線を画す姿勢を示しておく必要があろう」

問う人「まったくですね。世の勢いに便乗して騒ぐ輩の多いこと」

知る人「黙して終息を待つということではないのだが、ここはコロナウィルスについて論ずる場に非ず。第1回、第2回と続いた議論をさらに発展させていこう。・・・さて、健康というキーワードについてだが、これを最も意識するのはどんなときだね、君は」

問う人「やっぱり、体調崩したときですね。それと、ケガしたときと。まあ、要するにですね、医者の世話にならなきゃいけないような状態に陥った場合ってことですね」

知る人「そうだね。では、世の中で最も医者の世話になりやすい、或いはならざるを得ぬというのは」

問う人「病気がちな人でしょう。体が弱いとか、持病があるとか」

知る人「年齢ではどのあたりかな」

問う人「もちろん、上の方ですよ。高齢になるほどリスクが高いでしょうから」

知る人「現在の区分だと、65歳以上を高齢者と呼んでいるね。大いに議論の余地ありだが、とりあえずこの区分に従って言えばだな、高齢者になってから三途の川を渡るまでに、30年近くあるという人がかなりいる。私が少年の頃、90歳台の老人と聞けば、生きた化石みたいに思ったものだがね、今やそこらじゅうにいるからな。まだまだ増えるだろう。”第二の人生” などとはかない言い方ではなく、現役生活の第二幕とでも表現した方がよかろうね。だが、伸びているのは健康寿命ばかりではない。医者の世話になり続ける期間も延々と先へ更新されていく。不老不死の薬などあり得ないにしても、不健康を劇的に改善する特効薬も開発されはしないだろう。完治ではなく緩和だな。まじめに医薬品の研究開発している職業人たちには申し訳ない言い方になるが、薬で利益を出し続けたければ、ゆるやかに改善する効果の方がいい。リピーターが離れていくことがないからな。しかし、これでは一部の業界が儲かるだけで、国全体の利益にはならぬ」

問う人「もっと広く経済効果の波及するやり方ですか」

知る人「コロナのことがなければ、健康関連市場で活気づいてきたものの一つに認知症がある。正確には<認知症予防>だな。今はいいけど、数十年後の自分がボケ老人になっていやしないか、息子や娘に迷惑かけるお荷物になっていないか、気にし始めている人は多い。ここに目を付けた企業がさらに不安を煽り、認知症予防を一大マーケットにしつつあるのが現状だ。認知症保険などのケッサクな珍商品まで登場した。ここには、今現在認知症で苦しんでいる当人や、在宅介護で当人以上に苦しんでいるその家族が直面している悲惨な状況への配慮はない」

問う人「認知症以外にも目を向けた方がいいですよね」

知る人「その通り。老化したその先に待っているのはボケだけではない。心身の全ての機能が衰えるのだからな、何が起きてもおかしくないと言ってもいいであろう。とまあ、読者の不安を煽るような言い方をしてしまったがね、アンチエイジングなどといった耳ざわりのいいカタカナ語でごまかすのではなく、根のしっかりした老木になろうと努力するべきなのだな。ある日突然、隣の庭の木が倒れてきた。よく見ると、意外に古い木だった。なんだ、あれは老木だったのか・・・という具合に、そばにいる人ですらその年齢を意識しないほど元気な老人になりたいものだ。そうなるには、どうすればいいと君は思うね」

問う人「若いうちから体を鍛える。不摂生せず、ほどほどの暮らしをする。特に食生活ですね。食べたいだけ食べて、飲みたいだけ飲んでってやってたら、生活習慣病薬のヘビーユーザーになるのは目に見えてますから」

知る人「健康市場という観点ではどうだろう。健康関連市場なら、昔から存在したね。さらに活性化させるにはどうすればいいか。当サイトでは、安易なネットビジネスによる短期利益の追求を批判した。この点も踏まえて考えてみよう」

問う人「ううん、そう言われると難しいですね。結局は今までのビジネスの延長線上にあるんじゃないかって気もしますし」

知る人「もちろんそうだよ。根こそぎ新しい発想などあり得ぬ。一つ大切な点を挙げておくとだな、形のある商品ではなく、掴みどころのないサービスに力を入れた方が、息の長い、かつ、健全なマーケットに育つということだ」

問う人「今風に言いますと、モノではなくてコトだと」

知る人「そう言うと他のありきたりのアイデア群に埋もれてしまいそうだが、まあいいだろう。商品ではなく、何らかのノウハウ、それも安易なハウツー式のものではなく、実在する、或いはかつて実在した人物の生きざまにまで遡って一つ一つていねいに考え、その生き方をなぞり、そこから地域の誇り・町の看板とでも言える誇り高き何かを引き出すのだ。地域活性化運動と連動するような実践ノウハウだな。例えば、我が町の百歳さんたちはこうして長生きしている、と聞けば、いや、私たちの街の高齢者はこんな生き方で長寿を保ってきましたよ、ほお、そうか、僕らの地域はね・・・といった具合にだね、地域ごとに長寿ノウハウを公開し、そこに万民が試せる息の長いノウハウ、家庭で作れる健康食、スーパーの商品をアレンジしてもできる健康グッズ等々、具体的な商品アイデアにまで結びつけていく。こうすれば、誰にでもできて、誰でもどこでも買うことができて、しかも効果の長続きするロングセラー商品・ロングセラーノウハウが流通していくだろうな」

問う人「なるほど。そこにインターネットの爆発的な拡散力を加えれば、一気に大市場になるかもしれないですね」

知る人「そう。だがね、あえてネット回線に頼らぬという選択肢もあろうね。話が違うのだが、小説の一分野に、<書簡体小説>というのがあるね。近代文学で最も有名なのは言うまでもなく、漱石の『こころ』だ。作品の後半、延々と手紙が続くだろう。ワープロもスマホもパソコンもコピー機もない時代だからああなったのだろうが、私は少々疑問に感じたものだ」

問う人「何に対してですか」

知る人「いくら思いのたけを伝えたくとも、あそこまで長い手紙を実際に書くだろうか、ということだよ。安部公房氏の『他人の顔』のクライマックスシーンにも手紙が出てくるがね、漱石よりはるかに短いとはいえ、あれですら違和感を覚えたのだな。・・・ああ、違う話になってしまったが、昨今すっかり影を潜めた ”手書き” という方法がだね、実は高齢者の健康維持に極めて有効なのだ」

問う人「手を動かすからですか」

知る人「まあ、そればかりではない。どうまわり由紀夫氏は特別養護老人ホームで介護職員として働いているのだがね、氏によればだな、百歳近い老人でも、多くの場合、掌だけは動かせるというのだな。我が国最高の発明の一つとして ラジオ体操 というものがあるね。あれを老人たちにやらせても、ほとんどが手首ぐらいしか動かさないらしい。が、逆に言えば、手首なら動かせるということだ。まあ、思考力とも密接に関わることではあるがね、手紙なら書けるという老人も多いと私は思うのだな。自分で無理なら、家族に代筆してもらってもよかろう。もちろん単なるお手紙ではない。先ほど話した長寿ノウハウだよ。或いは、それまでの人生で得た中で最も誇れる何かでもいい、これを手紙にして後の世代に伝えるのだ。老人は自分の生き方が間違っていなかったと納得し、家族も喜び、それで健康増進となれば街の現役世代たちも恩恵をこうむることになる。煽るのはよくないが、自然な形でお国自慢みたいにして公開の場を儲ければ、例えば<道の駅>の長寿サービス版の如き施設だって可能であろうな」

問う人「どんどん広がっていきますね」

知る人「そう。人工知能がもてはやされる昨今だからこそ、なおのこと、人海戦術の良さを見直す必要があるのだよ。だがこれは、最近ひんぱんに使われる言葉で言えば ”濃厚接触” が避けられぬ。まずはコロナ禍を乗り越え、かつての猥雑なる社会に戻ることが大前提だな」

問う人「そういう市場が形成されれば、今のように、急激に大ヒットが生まれてすぐ消えるといった風潮は影を潜めていくかもしれないですね」

知る人「本当の狙いはそこだよ。息の長い、人間らしい血の通った市場を構築しなければならぬ。体も、頭も、心も使う最高に健全なマーケットだ。今や、この前提条件はすべて揃っている。あとは実践するだけだな」

(了)

4056字。

 

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