【よろずのことわり】百回記念特集・劣化する日本人(4)

【日本人のどこがダメになったかと言えば、やはり公共精神の欠如ではないでしょうか。かつては勤勉で礼儀正しい国民性が高く評価されたものですが、今や、刹那主義と利己主義の権化みたいになってしまいました・・・】

 

 

知る人「刹那主義と利己主義をまとめて言うならば、自分だけが・今・良ければ ということになろうかね」

問う人「まさにそうですね。ただ、われ先にと出世しようっていうんじゃなくて、自分が一番ラクしたいんですよね」

知る人「一番楽しみたい・一番いい思いしたい。…スポーツを見てもよくわかるな。かつて勝者というものは、敗者への配慮があった。今回は自分が勝った、だが次回の勝者は君かもしれぬ、とね。昨今の柔道を見よ。観衆の前でガッツポーズするのが当たり前の光景になってしまった。大相撲ですらそうだな。小泉元総理が観戦して、感動した、と言った 貴乃花-武蔵丸戦。貴乃花は拳を握ってアピールしたね。国技の最高位にあるものですらあのレベルだ。外人横綱たちなど、やりたい放題ではないかね。常に自己の刹那的興奮が先に立つのだよ。最高位にあるものは、ほんの一瞬たりとも、下位への配慮を忘れてはならぬというのにね。恥ずかしいことだ」

問う人「勝てばいい、というのは、売れればいい、という傾向と共通していませんか」

知る人「根は同じであろうな。本人たちに悪気はなかろうがな。そこを責められたら、え?何が悪いの? という具合に、戸惑うことだろう。勝負の世界には、厳然たる<道>があったはずなのだが、今やそんなことを教えられる指導者が皆無なのだろうな。ネット情報と同じで、勝ち方=ノウハウだな、そういう教え方しかできぬのに違いない」

問う人「結局、教育ですよね、どの分野も。教育がうまくいっていないと、正しい人材が育たない」

知る人「どんな分野にも、まずは<全体>という思想が必要だ。自分たちが命をかけようとしている世界の、部分ではなくて全体像だな。この広大な全体の中で、自分はどう精進してゆくべきか。これこそが、王道を歩む者の初期思想なのだ。商いも、公務も、芸術も、何もかも同じなのだ。まずは全体を意識する。その中で、自分がいかに小さな存在であるか、そして、大きくなるにはどれほど莫大なる努力という<投資>が必要か。しかも、自分と同じか、或いは自分以上に才能もエネルギーもある競合たちが掃いて捨てるほどいる。ここで生まれるのが、競争心だけではない。周囲への敬意だ。さらに、多くのライバルに恵まれた自分の境遇にこの上ない幸せを感じ、全体の一部であることに誇りを持つ。こうなれば、周囲への配慮など普通にできてゆくだろう。自分が社会的存在=公共空間の一部であるという精神まで、あとほんの半歩だよ。よく考えてみたまえ。どんな分野での競争でも、自分が勝てば、その分誰かが負けるのだ。勝つとはつまり他人を負かすことに他ならぬ。ただ、勝者が永遠に勝者である保証はない。勝負は延々と循環するものなのだな。だからこそ、誰よりも努力するんだという気迫・気概だけではなく、大いなる循環の中にいるという自覚が同時に芽生える。この循環は、人を謙虚にさせずにはおかぬ。他人をダシ抜く、踏みにじるのではなくて、自分の属する全体世界の構成比が、一時的に変わるだけ。常に自分は流動している。いくら地に足つけて努力精進し続けていようとも、全体の中の固定的要素にはなれない。だからこそ私たちには謙虚さが必要なのだ。さらに、そうやって汗を流し続けてきた偉大な先輩たちが、自分の前にたくさんいる。彼らへの敬意も決して忘れてはならぬ。話が長くなったがね、要するにだな、公共の精神の欠如とは、自分が全体の中のごく小さな一部分であるという自覚の喪失のあらわれなのだ。二千年も昔にエピクテトスが言ったように、全体への奉仕だ。ここに次世代の日本をつくる大いなるヒントが隠されている」

問う人「しかしですね、今おっしゃったようなことがわかっている日本人など少数派でしょう。惨憺たる現状を変えるにはどうすればいいのでしょうか」

知る人「理論の果実と、実践の果実。両方手に入れるのだよ。正しい主張を言い続けると同時に、それを実務レベルで行動に移すのだ。論より証拠と昔から言うだろう。論と証拠どちらも不可欠なものなのだな。要は実績だよ。正しい者が勝たぬ限り、世界は何も変わらぬ。過去の成功者にほぼ共通しているのは、 ”自分教” とでも表現したくなるほど自分を信じ、自分の信念に誇りを抱き続けている。いきなり大組織をつくろうとせず、数歩前を見よ。劣化した日本を救うのは他ならぬこの自分だ、と信じ続け、目先の成功には耳を貸さず、自分の全体世界の中の、自分の王道を歩むのだ」

(了)

1936字。

 

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