「Go To トラベル」ですか。ううん
【政府による観光事業支援策「Go To トラベル」が、どうやら出足からつまずきそうですね。コロナ禍で落ち込んだ観光業界への支援、ひいては経済の活性化、と考えてのことでしょうが、どうにもいただけません。政府は何考えてんだか…】
知る人「何も考えておらぬのであろうな」
問う人「ははあ、のっけから厳しく出ましたね」
知る人「もちろん、頭の中には何かある。だが、彼らのやり方はいつも同じだな。つまり、この指とまれ、と掛け声をかけて、誰もこなければやり方を変える。実に単純である」
問う人「はあ、でも、わが国の中枢にいる人たちですよ。そんなにいい加減のでしょうか」
知る人「彼らはだな、多数派の立場を維持するためなら何でもやる。軽くジャブを放ち、それがまるで効かぬとわかれば、それを誰かのせいにして、次の手を打つのだな。トカゲの尻尾を少しずつ少しずつ切っていって、尻尾が短くなった分また新しく生えてくればそれでよし。アメーバの如き組織と言ってもいいかもしれぬが、まあ、要するに、権力維持さえできれば、あとはどうでもいいのであろうな」
問う人「それは例えば今回のように、明らかな誤政策とわかっていても、ですか」
知る人「そう。誰かに責任を転嫁するか、或いはお得意の不毛な論議を仕掛けて結論をうやむやにする。人の噂も七十五日、時間さえ立てばまた万事無難にいく、と思っているに違いない」
問う人「はあ、なるほど。でも、それって、私たち国民を馬鹿にしてませんか」
知る人「してるに決まっているだろう。古来我が国の為政者にとって、人民とはバカなのだからな。徳川以来の愚民政策は、形を変えて今も続いているのだよ」
問う人「それにしても、判断ミスとしてデカ過ぎやしませんか。東京都を中心に、感染者がまた増加していて、すわ第二波だ云々と騒いでいる今、観光業の活性化のために人を流動させるだなんて」
知る人「そうだな。ウィルス宅配便を全国に派遣するようなものだ。このまま強行すれば、どこかの知事が言うように、人災としてますます被害は拡大するであろう」
問う人「でも、ここへきて、与党内にも慎重論が聞こえてきました。専門家の意見をきくとか何とか言っているようですが」
知る人「おそらく、専門家に賛否両論を戦わせ、そこに政府が割って入って、延期の方向に舵を切るつもりだろうな」
問う人「中止ではないのですか」
知る人「彼らお得意の ”先延ばし” に決まっている。そうすれば、ほとんど誰も傷つかずに済むからな。政策自体は間違っていない、ただ、時期尚早だったというオチをつけたいのだろう。なんせ私たち日本国民は、政府の迷走にはもはや慣れっこになっている。テレビのワイドショーも、ネタが尽きず助かるであろう。私たちは無意識のうちに、愚かな政府とその政策を支えてしまっているのだな。嘆かわしいことだ」
問う人「ということは、あまりおおごとにならず、うやむやのうちに今回も立ち消えになるだろう、と」
知る人「いかにも」
問う人「でも、何でこういう愚策しかでてこないのでしょうね」
知る人「百年の計が頭にないからだろう。普通のサラリーマン同様、行ってきまーす、と言って家を出て、夜はただいまー、と帰宅、夕食の席で、きょうの国会もたいへんだったよー、と家族に軽く話して、風呂入って一杯飲んで寝る。国家の屋台骨を支える国会議員が、どこにでもいるサラリーマンと同じく、ただの勤め人に成り下がった結果だな」
問う人「今回の誤判断を、プラスに転化することはできないのでしょうか」
知る人「地方にとってはプラスになるだろうな。ああ、やっぱり政府に任せていてはダメだ、自分たちが頑張らねば、と気合いが入るはずだ。いずれ、地方発の大きな地響きが始まるだろう。今はそれを、楽しみに待つとしようではないか」
問う人「何が起きるのでしょうね」
知る人「まあ、大昔のような ”下克上” みたいなおおごとにはならぬであろうがね。地方にも、そこまでの覚悟ができている政治家はおるまい。だが、間違いなく言えるのは、ますます地方が中央の言うことを聞かなくなるということだな。ザワザワと騒がしい国になるかもしれぬが、それらの中から、新しい才能が生まれるにちがいない。どんな愚策に出会おうとも、私たち国民は前向きな気持ちを失ってはいかんのだ。日々精一杯生きて、粛々と義務を果たしつつ、次の夜明けに期待するとしよう」
(了)
1804字。