早寝早起きで難局を乗り切れ
【僕は夜型人間だったのですが、早朝勤務の多い職場に移ったことで、すっかり時間軸が変わりました。最初は眠くてしょうがなかったんですが、慣れてくるとけっこう快適ですね。早起きすると、一日が長くて得した気分です】
知る人「朝起きは三文の得、と昔から言われているがね、それを実感したというわけだな」
問う人「そうなんです。以前はですね、早起きをバカにしてたんです。あんなのは、日中ヒマ過ぎて疲れることがなく、すぐ目が覚めてしまうご隠居さんたちのやることだ、ってね」
知る人「ビジネスマン向けのいわゆるハウツー本などで、朝寝坊を奨励しているものはたぶんないだろうな。私たちの体は、昼に活動して夜は休むようにできている。体内のさまざまな作用の更新や蘇生・回復というものは、ほとんどが就寝中に進行する。早寝早起きは、倫理や道徳の問題以前に、理に適っているわけだな」
問う人「夜勤の仕事なんかだと、大変なんでしょうね」
知る人「一晩中ずっと働き続けるわけでもなかろうが、人が寝ている時間帯に活動すると、排便その他、いろんなところでリズムが狂ってくる場合がある。どこの職場もおそらく、夜勤者は健康診断の回数が多いはずだ。それだけ体調管理が難しいということだな。まあ、それはいいとして、君、早朝出勤になってから、おもにどんないいことがあったのかな」
問う人「朝ご飯がおいしいんです。それと、僕は読書が好きでして、出勤前少なくとも1時間は読みます。帰宅後も時間がいっぱいあるから、また続きを読むことができて、調子のいい日は、一日で一冊読み終えたりもできるんです。何だかすごく得した気分ですよ」
知る人「それでも一日は二十四時間だ。大金持ちも貧乏人も、この点だけは同じだからな。君、朝の読書中に眠くなったりはしないかね」
問う人「そうですね、つまらない本のときなんかは寝ちゃったりしますね」
知る人「最近は、何を読んでるのかな」
問う人「おもに発達心理学ですね。人間には、成長過程ごとに課題があるってことを知って、なるほどと思いました。いつか心理系の資格をとろう、がんばってます」
知る人「けっこうだな。人は心で動くものだからね。心理学を使いこなせたら、どんな職業人も仕事がより楽しくなるだろうな」
問う人「ところで、朝型とか夜型とかいうのは、個人差なんでしょうかね」
知る人「まあ、そうだろうな。夜しか調子が上がらぬという人の話もよく耳にする。静まり返った部屋で黙々と机に向かえば、さぞかし仕事がすすむのであろう。だが、そういうのは文筆家など一部の職業人に限って考えるべきだろうな。私たち一般人、とりわけ勤め人の場合、多くは少ない稼ぎに反して長い労働時間に喘いでいる。低所得から抜け出したくば、勉強して自分を高めねばならぬ。が、一日働いてクタクタになって帰ったら、あとは食って寝るだけ。がんばってもせいぜい新聞を読むぐらいなものであろう。ゲームや動画サイトの異常な隆盛は、このようなお疲れ勤労者に支えられている部分が大きいだろうね。一方、経済的にゆとりのある人々はどうだ。もちろん忙しいだろうし、経営者や独立事業者であれば、日々のストレスは大きく、重い。しかし、こういった人たちは自分の意思で動ける立場だからな、雇われ人よりはずっと時間に融通が利く。つまり、実務に長けた人物ほど、理論を学ぶ時間的ゆとりを持っているのだな」
問う人「はあ、ということはですね、金持ちほど賢くなれるってことでしょうか」
知る人「そう。強い者はさらに強く、弱い者はいつまでも弱く、というふうに、ヒエラルキーの上と下の差がますます開く一方だ」
問う人「私たち貧乏人は、いつまでたっても金持ちに追いつけないってことですね」
知る人「その通り。その結果、自由に使える時間の持ち分でも差が開き、上位者は理論と実践の両輪をフル回転させて社会的地位を築き、支配力を強化する。下位者はひたすら現場一本やりで、自分の仕事を客観的に見つめ直したり、自らの置かれた立場・環境を一歩下がって俯瞰したりといった、職業意識の補強工程を経ることすらかなわぬ。これが延々と続くことにより、今さえ良ければいいという刹那主義労働者が増殖し、くだらぬゲームや動画が世の隅々にまで蔓延する。浅はかな彼らは、ちょっとしたエサを撒かれたら、いともたやすくご主人サマになびく。過激思想やオイシイ理想主義を知れば、あっという間にそっちを向く。保守・革新問わず、大衆を先導しようとする者にとっては実にやりやすい民なのだな」
問う人「だから、もっと勉強せよと」
知る人「そうだ。時間がない、という言葉は言い訳でしかない。無駄遣いするからなくなるのだ。支配者の靴の底を舐め続けるのがイヤならば、時の無駄遣いをやめるしかない。自分の自由な時間を少しずつ取り戻すのだ。それには朝を活用するのが早道である。酒を飲んだりゲームに興じたりするから熟睡できず、翌日に疲れが残るのだ。生涯に一度も勝てぬ、敗北だけの人生でいいのか。少しでも危機感を抱いたなら、すぐ行動せよ。まずは自由な時間をわがものとするのだ」
(了)
2090字。