<一年の計>が続きません…

【いつも正月にその年一年の計画を立てるのですが、うまくいった試しがありません。僕はもう30代後半で、こんなことしてる場合じゃないんですが。今年こそは、と気合を入れ直して、また計画を立ててます。同じ失敗を繰り返さないように】

 

 

知る人「どんな計画を立てているのかな」

問う人「僕は営業マンなんです。だから、成績を上げるためにこうしようああしよう、と」

知る人「具体的には」

問う人「下着メーカーに勤めてまして。商品知識をつけるために、資格をとろうとしてるんですが、本を買って、はじめの方をパラパラめくって、それでおしまい。ビジネスのセミナーに参加したりもしてるんですけど、それでおしまい。あとが続かないんですね」

知る人「下着の営業に役立つ資格というのは、何だね」

問う人「『繊維製品品質管理士』っていうのがありまして。本社の企画会議に出ると、いつもデザイナーやMDに冷たい視線を向けられるんです。(おまえ、わかってんのか)って暗に言われてるみたいで、なんだか悔しくて」

知る人「その悔しさが、資格取得の原動力にならんのだな」

問う人「まあ、言ってみればそうですね」

知る人「なるほど。ここまで聞いた限りで結論を言えばだな、心底悔しくないのであろう。だからその思いが力にならぬのだ」

問う人「ううん、まあ、確かに、会議の場ではカッと頭に血が上ったりするんですけど、ウチに帰れば(ああ、きょうも疲れたなあ)ぐらいで終わってしまうときもありますね」

知る人「基本的なところを確認したいのだが、そもそも、下着という分野は好きなのかね」

問う人「いやあ、好きで入社したわけじゃないですね。生活に必要なものを扱いたい、と思って入っただけなので。でも、もちろん、好きになろうと努力はしてますよ」

知る人「君はその会社の生え抜きかね。それとも中途入社組かな」

問う人「中途です。食品メーカーにいたんですけど、そこは主力工場が東北にあって、東日本大震災で工場がつぶれてしまい、そこからガタガタと崩れていきまして」

知る人「倒産か」

問う人「まあ、いちおう ”廃業” の形ではありましたけど、事実上の倒産ですね。それで、食品業界で次を探したんですけどなくって」

知る人「衣食住、という視点で、下着屋にしたわけだ」

問う人「そうなんです。でも、下着っていってもですね、今は高齢者でもボクサーパンツなんかを履く時代です。昔のももひきやズロースを愛用する世代はほぼ全滅。下着もすっかりファッションの波にのまれてしまいまして」

知る人「で、何だ。ファッション化にはうまくついていけぬ、ということかな」

問う人「そうなんです。もともと、着飾ることにはまったく興味がなくて、ファッション雑誌なんて、指一本触れたこともなかったんですね。ところが、今の会社に入ってからは、そんなこと言ってられなくて、繊維の基本からおしゃれまで、幅広く勉強しなければならないんです」

知る人「ここまで聞いて、さらによくわかった。一年の計、という話から離れていきつつあるが、君には重荷だな、ファッションというのは。今まだ30代だろう」

問う人「はい、37歳です」

知る人「独身かな」

問う人「はあ、残念ながら」

知る人「食と衣の二分野で働いてきた君には、生活関連の仕事をする資格も素質もある。だが、いままでの職歴から判断するとだな、生活または暮らしというものを見つめる視点が、商人のそれとは異なるのだよ。確かに私たちは、毎日何かを食べるし、何かを衣類として身にまとう。そういった意味では、誰にでも衣食関連の商売はできそうにも思えよう。しかし、暮らすためにそれを調達するのと、人にそれを商品として提供するのとでは、本質的に違うのだな。デザイナーたちを見返してやりたいのであろうが、根本的に君は商人ではない。だから勉強もセミナーも長続きしないのだよ」

問う人「ううん、向いてると思ってるんですけど…」

知る人「君が興味を抱いているのは、下着そのものではない。下着も含めて、それらを必要とする衣生活なのだ。着飾るのではなく、暮らしに必要だから着る。君の軸足はここだ。衣食住にこだわるのをいったんやめて、暮らしという観点で職を探してみてはどうかな。コロナ禍の今、職探しはたいへんかもしれぬ。だが、あるところにはあるのだよ。暮らしに必要な商品或いはサービス、というふうに考えてごらん。生きていくのに欠かせぬものであれば、コロナにも負けはせぬ」

問う人「ううん、なるほど。でも、何がありますかねえ」

知る人「株式会社だけではダメだ。非営利団体も視野に入れねばならぬであろうな」

問う人「はあ。今まで、非営利なんて考えたこともなかったですけど」

知る人「商人には商人道というものがある。君はその上を歩み続けるには何かが足らぬ。その足らぬものを補うより、今の君で勝負できる分野に、活躍の場を移すのだな。そうすれば、40歳までにはパパになれるだろう」

問う人「まだ、相手もいないんですよ」

知る人「活躍の場を得て、揺るぎない自信を身に着けるのだ。そうすれば、良き伴侶が必ず現れよう。己を信じて、とにかく前に進むことだ」

(了)

2096字。

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