反乱のために必要なこと(3)
【反乱のために必要なのは、まず本業に徹すること、次に表現力を磨くこと。これら二つはよくわかりました。でも、まだありますよね、大切なことが。この二つだけでは足りない気がします。もう少し、何かを】
知る人「君は何が足りないと感じているのかね」
問う人「そうですね、行動を起こしたのはいいが、やがて尻すぼみになって消えていった…というのを多く見かけますから、途中でやめないように自分を支えてくれる何か、鼓舞してくれる何か、ということでしょうか」
知る人「三番目に必要なのは、<師>を持つことだ。できれば、活動の象徴的存在と、理論的指導者だな。二通りの師匠がいれば心強いであろう」
問う人「例えばどういう人ですか」
知る人「そうだな、不屈の闘志の象徴としてキング牧師、理論的指導者としては、自分の気に入った学者か誰かでよかろう。今も活躍中の人物でも、歴史上の偉人でも、誰でもよい。もちろん、象徴的存在が理論的指導者を兼ねていても構わぬ。むしろその方がわかりやすくてよかろう」
問う人「なるほど。誰でもいいのですね」
知る人「そう、誰でもよい。君ならだれを選ぶね」
問う人「そうですね、ぼくは清廉潔白であると同時に思想・信条にも影響を与えてくれる人物がいいので…かなり古いけど、マルクス・アウレリウスがいいですね。ダメですか」
知る人「ダメということはない。自分によければ、それこそ、犯罪者であっても構わぬのだからな。まあ、その場合はおいそれと口に出せぬがね。とにかく、我らは弱く、そして小さい。反乱に限らず、何か新しいことを始めようとしても、初心をすぐ曲げてしまう。なんだかんだと、もっともらしい理屈でね。そうならぬためにも、自分を厳しく監視していてくれる師匠が必要なのだな。なかには、他人ではなく自分、つまり、今ここに存在する我ではなく、理想自己だな。そのような目標とする自分を生み出し、それに現実の自分を監視させる場合もあるかもしれぬ。ただこれは、そうとう意識の高い、精神の強靭なる人物であろうな。我らのごとき凡人は、偉業を成した人物に尻を叩かれ、背中を押されねば、なかなか先へは進めぬものだ」
問う人「先日、父を病気で亡くしたんですが、その昔、ぼくが変な野心を抱いて転職に大失敗したとき、父にこう言われたんです。
野心を捨てて、向上心だけを持ち続けなさい。
…これは座右の銘の一つです」
知る人「素晴らしい言葉だな。哲学者にも優る名言だよ。その言葉とM・アウレリウスがいてくれれば、君に怖いものなどあるまい」
問う人「いや、世の中怖いものだらけですよ。そう思いませんか」
知る人「そう。だからこそ、闘うための武器が必要なのだ。メシのタネ、表現力、そして精神並びに理論的支柱。これらが揃えば、他に必要なのは心身の健康維持だけだと言ってよかろう。さあ、世をぐるっと見渡してみるがよい。いかに愚か者だらけであることか。君が本腰入れて闘い始めたとき、彼らの多くが君の足を引っ張るであろう。波風立てられるのを嫌がる輩だ。バカほどこわいものはない。奴らはアホだマヌケだと高を括ることなく、周囲どこから攻められても受けて立てるよう、準備を怠らぬことだ。そうして、最後に勝つのは自分だ、と信じること。信念無き者に勝利の女神がほほ笑むことは、断じてないのだからね」
(了)
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