「障害」と「障がい」の違いについて
【差別用語を減らしてゆくのは、とてもいいことだと思います。もっと早くから取り組むべきだったでしょう。ところで、どうしてもしっくりこないのが『障がい』という言い換えです。文字表記だけでは済まないような…】
知る人「この件に関しては、私も、専門家間の意見交換等の議事録を読んでみたりして、いろいろと調べた。『障』にも差別的な意味が含まれる、という意見、 痴呆症➡認知症 という、言い換えの成功例を挙げた意見、その他さまざまな案や考えが出されたものの、結局のところ、『障がい』に落ち着いてしまった」
問う人「現状よりはマシ、ということで終わってしまったんでしょうか」
知る人「まあ、そういうことになるだろうね。だが実際には、マシどころか、目障り、耳障りな現代語が一つ増えたに過ぎぬ。漢字とひらがなの混ぜ書きというのは、そもそも目障りなものだがね、この場合はそんな程度では済まぬ。もっとも私を落胆させたのは、それに代わるあらたな日本語の提示がなかったことだ。私たちの母語である日本語=やまとことばには、ほれぼれさせられるような、美しい言葉がたくさんある。それらを徹底的に掘り起こし、『障害』にとってかわる表現を見つけ出そう、という努力が見られなかった。この点は、私たちの民度の低さともおおいに関係してくるがね、とにかく、実に腹立たしく、かつ、醜い結論であったという他はあるまい」
問う人「関係ないかもしれませんが、市町村合併のとき、自治体名に西洋語を混ぜ込もうという動きがありましたよね。あれなんかも、根っこのところではつながってる問題ではないかと」
知る人「同感だね。実際、『南アルプス市』などという植民地的自治体名が誕生している。今回の件とまったく同じとは言えぬが、同根から派生した問題であろうな」
問う人「差別意識を払拭する、ということで言えば、障害者と健常者を区別しない方がいいのだとは思うのですが、でも実際は、いろいろと不都合が出てきますから、分けないで済ませることはできませんよね」
知る人「道の段差をなくしたり、点字帯を設けたりして、体の不自由な人たちにも暮らしやすいような工夫はすすんでいる。これはこれで、どんどんすすめていってほしいものだ。だがね、根本的な解決への道筋は、たった今、君が口にした言葉の中にあるのだよ。ある討論会の席上で、こんな意見が出た。要約してここに転載しよう。
『障害』という表現は、当の障害者団体自身が使っている。これよりもむしろ、『健常者』の方に問題がありはしないか。『障害者』に対して、『非障害者』と呼ぶべきではないのか。
・・・この意見は、議事の進行によって消えてしまった。が、百点満点とは言えぬにしても、実に鋭い視点であったと私は感じた」
問う人「あの、僕の知人に精神障害に苦しんでる男性がいるんですけど、彼があるとき、こうつぶやいたんです。
『健常者』って、だいっきらいな言葉なんだよね。
・・・日頃、感情をむき出しにするような言い方は絶対にしない男だけに、このつぶやきは印象的でした」
知る人「そうだな。彼らから見ればそれは、決して崩せぬ堅牢な城壁なのかもしれぬ。『あなたは障害者』よりも、『おれたち健常者』の方が、はるかに近寄りがたい認識の壁であるに違いない。このことも踏まえて、『障がい』という中途半端な妥協案は捨てて、母語の専門家をも交えた本格的な議論に発展させていってほしいものだね。これがゆくゆくは、『ソーシャルディスタンス』だの『エッセンシャルワーカー』だのと、何の臆面もなく植民地語を多用する恥ずべき風潮に投じる一石とならんことを、私は強く願うものである」
(了)
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