書いて終わり、でいいのか

【 ”ものごとの本質を見据え、それを的確に表現できる才能” というお話でしたが、それでもわたしには疑問と不安が残ります。ただの言いっ放しで逃げてしまうみたいで、中途放棄してるみたいで・・・】

*本記事は、12月18日<読む・考える。そして書く>の続編です。

 

知る人「世に言う知識人や専門家たち、あるいはいわゆる ”作家” というあいまいな肩書で売文生活を続けている人々の中には、確かに君の言うとおりの輩がうようよいる。彼らの行動原理は、およそ以下の如くであろう。

1)自分の思ったこと、感じたことを、とりあえず文章にしてみた。これに対する反応は、肯定であれ否定であれ、次の原稿依頼につながる橋渡し役として容認する。つまり、書いて食えりゃ文句なし、という連中だな。

2)専門的知識を持つか、または体験的に知っている者として、ここは黙っておけぬ。ひとこと言わねば、と感じて筆をとる。情報提供者の姿勢としては、比較的良心的な部類に属するであろう。

3)特定の誰かを攻撃することを目的とした、挑発的文章を書く。百田尚樹などはこの典型だな。こういった輩は、自身の無遠慮で無品格な叫びが、世論を喚起すると信じている。言ってみれば、騒音公害の一種でもある。

4)ネットご意見番などともてはやされている輩に多いのだが、文章というよりは、ぼやき、つぶやき、言いがかり、突然のひらめきや思い付きなどの話言葉を、そのまま文字にして公開する。論破王と呼ばれている漫画見たいな男がいるだろう、あれなどはまさにこの部類に属する。ライブドア事件で人ひとりを死に至らしめた罪人・堀江某もこの類だな。汚らしい、恥ずべき日本語をまき散らして平然としている奴らの多くは、だいたいこの連中だ。

・・・さて、君の言う、言いっ放しで逃げてしまうのは、上の四つのなかにいるかね」

問う人「はあ、そうですね、2)ではないですね。それ以外の三つは、どれも、ぴったりではないですけど、かなり近いですね」

知る人「戦前の我が国のように、ちょっと本音を吐いただけで牢獄行き、といった不自由な時代ならいざ知らず、今はペンの力がすっかり弱くなってしまっている。これについては、 <新聞を読むべき理由> という記事とも関連してくるのだがね、書くという仕事が、書ける力のある人たちの特権ではなくなった。言葉は悪いが、馬鹿でも書ける時代だからな。今こうして書きすすめている我がサイトにしてもだな、これが紙媒体であれば、あっちこっちに朱を入れられた原稿が戻されるであろう。自由に書きたければ、自分の雑誌・新聞を創刊するしかない。現代のウェブサイトというのは、かつての個人雑誌のWEB版みたいなものだな。まあ、紙ごみが出ないだけマシかもしれぬが、電波公害・情報公害の引き起こす惨状は、君も日々感じている通りだ」

問う人「ひとことで言えば、無責任な言論の氾濫、ですよね」

知る人「そう。そんな中にあって、言論に力を持たせることができるのか。とにかく私たちの社会には問題が多い。それも、放置しておけぬ緊急性の高い難題が山積という状況だ。巨大かつ深刻な難題の代表格としては、何と言っても地球環境の破壊だね。このような、まさに今すぐできることに着手しなければ、傷口はますます広がり、未来の人々に負の遺産をごっそり引き継がせることになる、という大問題があまりに多すぎるのだ。これでは、正義感の強い人、義憤に燃える人ほど、(いったいどこから手を付けたらいいんだ)と、途方に暮れるばかりであろう」

問う人「そうなんですよね。まさにその心境なんです。机に向かって書いてる場合じゃないだろ、って思ってしまうんですね」

知る人「その気持ちはよくわかる。私はかつて、たぶん30年ほど前になると思うが、長良川河口堰建設に反対するデモ行進に参加したことがある。俳優の近藤正臣氏も参加した、けっこう大規模なものだったが、なんのことはない、あっさりと建設はすすめられてしまった。無力感でがっかりしたものだよ。今もこれと変わらぬことが全国で起きている。こんなとき、(書いて何になる)と感じるのであろう。行動こそすべてではないか、とね。マザー・テレサが米国の大学で講演した際、結びの一節は

あなたのすぐそばにある貧しさに気付いてください。

というものだった。だが、それに気付かせてあげるのも、書く者の役割りなのだよ。気付かない限り、行動には移せぬ。よいか、世の中には役割というものがある。注意喚起・問題提起する者,それを分析・検証して具体的な計画を作成する者、そしてその計画を実行する者だ。それぞれが重要な、尊い使命を帯びた職業人なのだよ。本記事の表題の言葉で締めくくろうと思うのだが、まさに、書いて終わり、でいいのだ。本物の文章であれば、実践・実行と同等の価値を持つ。いいかね、書くことは、問題解決の第一歩なのだ。君の踏み出す一歩めに続こうとして、君の後ろには多くの、高い志を有する人々が待機している。大事なのは、君の一歩なのだ」

(了)

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